1.本日、ソウル中央地方法院第15民事部(裁判長 閔聖喆 ミンソンチョル )は、日本軍「慰安婦」被害者が日本国に対して提起した損害賠償請求訴訟において、国家免除を理由に原告らの訴えを却下する判決を宣告した。去る1月8日、ソウル中央地方法院第34民事部(裁判長 金正坤 キムジョンゴン )は別の日本軍「慰安婦」被害者らが提起した損害賠償請求訴訟において、「人道に反する重大な人権侵害事件において最後の手段として選択された民事訴訟にまで国家免除を適用することは、裁判を受ける権利を保障した韓国の憲法秩序と国際人権規範に合致しない」という点を明らかにして損害賠償判決を宣告し、日本政府が控訴を放棄することにより判決が確定した。世界の人権の歴史に記念碑として残るこの判決とは異なり、裁判所が国際人権の流れに逆行してまで日本国に免罪符を与えた今回の判決について、我々は強く糾弾せざるを得ない。裁判所が被害者の損害賠償請求権が持つ意味、すなわち、人間としての尊厳と価値の回復という点と、実効的権利保障のための国際人権条約について細心かつ真摯な考察をせず、ひたすら「国益」の観点から判断し、その責任を立法府と行政府に押し付け、最後の人権の砦としての司法部の責任を放棄したという点で極めて遺憾であると言わざるを得ない。上記判決は、次のような理由により、とうてい納得しがたい。


2.第1に、裁判所が日本国に免罪符を与えるために、反人道的な犯罪としての日本軍「慰安婦」制度の問題について審理もせず、憲法裁判所の決定と異なり2015.12.28韓日合意を権利救済手段とみなし、被害者らの意思まで歪曲し、その根拠としたのは非常に卑怯で違憲的である。 裁判所は日本軍「慰安婦」制度の具体的な違法性を審理もせず2015.12.28韓日合意(以下「2015韓日合意」)を代替的な権利救済手段とみなし、和解癒し財団の現金支援事業が進められて生存日本軍「慰安婦」被害者らの相当数がこれを受領したので、上記の合意が日本軍「慰安婦」被害者らの意思に明らかに反するものとは断定しがたいと判断した。しかし、政府は2015韓日合意が日本軍「慰安婦」問題の解決とはなりえないと数回にわたって発表し、憲法裁判所も2015韓日合意について、日本軍「慰安婦」被害者が被った被害の原因や国際法違反に関する国家責任に言及しておらず日本軍の関与の強制性や不法性が明示されていないとして、被害者の被害回復のための法的措置に該当しないと判断した。その上日本政府は本件の訴訟手続に参加もしなかった。それにもかかわらず裁判所があえて2015韓日合意を代替的な権利救済手段とみなし、国家免除法理採択の主要根拠として提示したことは到底納得しがたい。一部の生存日本軍「慰安婦」被害者らが和解癒し財団から現金支援を受けたとして、まるで合意が数多く被害者らの意思に反していないかのように判断したのは、裁判所の漠然とした憶測であるだけでなく、公権力の重大な人権侵害についての加害者の責任と被害者の権利を深刻に誤認するものであり、被害者の人権についての基本的な原則も考慮しない判決である。

第2に、裁判所は、国際法遵守の必要性を説示ながら、実効的権利保障を規定した国際人権条約の遵守義務については全く審理しなかった。 今日、国際人権法は深刻な人権侵害について被害者の救済に関する権利を規定するとともに、国家がこれを保障する義務があることを明らかにした。特に国連総会で2005年に全会一致で採択された「国際人権法と国際人道法の重大な違反行為に対する被害者救済と賠償の権利に関する基本原則とガイドライン」は、各国が必ず保障すべき被害者の権利を提示したが、その中の第一の原則は被害者の「司法にアクセスする権利」である。これは人権侵害の被害に対する実効性ある救済を受ける権利として、主要な国際人権条約や地域人権条約だけでなく、個々の国家も憲法を含む国内法を通じて保障している。各国は国際人権条約に基づいて国家免除理論に挑戦する判決をしたが、イタリア最高裁判所の2004年判決(Ferrini事件)、イタリア憲法裁判所の2014年判決(No.238 / 2014)、米国裁判所の1980年判決(Letelier vs. Chile事件)などは、深刻な人権侵害が法廷地国内で行われた場合には国家免除が適用されず、法的責任を問わねばならないと判断した。去る1月8日には、アジアで初めてソウル中央地方裁判所が本件と同じ日本軍「慰安婦」事件において、国家が国際社会の普遍的な価値を破壊し、反人権的行為により被害者らに重大な被害を加えた場合までも最後の手段として選択された民事訴訟で裁判権が免除されると解釈し、裁判を受ける権利を剥奪することは不合理で不当であるとして大韓民国の裁判所に裁判管轄権があると判断した。去る4月7日には9カ国で合計410人の法律家が上記の判決を支持する声明を発表した。裁判所は国際法を遵守し、新しい例外の創設には慎重でなければならないとしながらも、実際には国際人権条約や、国家免除理論に挑戦する各国の判決を無視し、あらかじめ下した結論に辻褄を合わせるために偏向した判決をした。

第3に、裁判所は国家免除を適用して裁判権行使を制限することが韓国の憲法秩序に明らかに反するにもかかわらず、これを裁判規範として認めて判断した。 国内裁判所が国家免除を国際慣習法と認めて裁判規範とするためには、そのような法理が韓国の憲法秩序に適合していなければならない。憲法裁判所は、去る2011年、日本軍「慰安婦」被害者らの日本国に対する賠償請求権は、憲法上保障された財産権であるだけでなく、その賠償請求権の実現は人間としての尊厳と価値及び身体の自由を事後的に回復する意味を有するものであり、その賠償請求権の実現を妨げることは憲法上根源的である人間としての尊厳と価値の侵害と直接関連があると判示した。これは訴訟を通じた賠償請求権の実現が韓国憲法第10条に規定している人間の尊厳と価値の事後的な回復に該当することを認めたものである。それにもかかわらず裁判所は自ら国家免除を適用し、韓国裁判所の裁判権行使を制限した。裁判所は日本軍「慰安婦」被害者の基本権侵害に対する権利救済を本案に関する判断もせず事前に遮断することにより、憲法第27条で保障される裁判請求権を否定し、憲法第10条が保障する人間の尊厳と価値を毀損したのだ。国家免除を適用することが韓国の憲法秩序に明らかに反するにもかかわらず、そのような法理を裁判規範として認めたという点において、とうてい納得することができない。


3.日本政府は日本軍「慰安婦」問題が1965年請求権協定で解決されたとの主張ばかりを繰り返し、明示的に不法行為責任を認めず、日本の最高裁判所は1965年の請求権協定により日本の裁判所で裁判を受ける権利がないと判示して裁判所の門を閉ざした。このような状況において裁判所が国家免除を適用したことは、国際人権法秩序で保障されている被害者の「司法にアクセスする権利」ないし自国の裁判所で「裁判を受ける権利」を永久に排除することに他ならない。裁判所は被害者らの声に耳を傾けたり、被害事実について十分な審理もせず、最後の救済手段として選択された本件訴訟の意味を看過したまま、韓国の憲法秩序に明らかに反する国家免除を適用することにより日本国に免罪符を与えた。どこでも権利を救済されないまま、司法部が正義にかなった判決を下してくれることを切実に待っていた被害者らの切迫した訴えに再び背を向けたのだ。


4.また、今回の判決は人道に反する犯罪についても国家は無条件に免責されるという誤った先例を残しただけでなく、イタリア最高裁と憲法裁判所、そして去る1月にソウル中央地方裁判所が、力によって支配されてきた国際秩序を克服して崇高な人権の価値を明らかにするために発展させてきた国際人権法の歴史的な成果を無視し、後退させたという点で当然に批判を受けるべきである。本日宣告された判決は憲法の要請事項に反し、時代的にも、国際人権法の発展に適合しない判決として歴史に汚名が残るだろう。


5.本日の判決に対しては、被害者らと協議して近日中に控訴手続を行ない、絶対に放棄できない人権回復と歴史正義の実現のために最後まで闘うであろう。日本政府は、本日の判決に関わりなく1月8日判決の内容を受けいれ、被害者に不法行為の責任を前提とした謝罪と賠償の手続きを履行しなければならない。


2021年4月21日
民主社会のための弁護士の会
会長  金度亨 キムドヒョン

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