(この日本語訳は、英語と中国語の原本をもとに作成した仮訳です。研究のために利用される方は必ず国連webサイトに掲載されている国連公用語による原本を参照してください。)


2005年12月16日の総会決議60/147として採択、宣言

国連総会は
国連憲章、世界人権宣言、国際人権規約、その他の関係文書、ウィーン宣言および行動計画に基づき、

国際人権法の重大な違反および国際人道法の深刻な違反の被害者に対する救済および賠償の問題に国内および国際レベルで体系的かつ徹底的に取り組むことの重要性を確認し、
国際社会は、救済と賠償を享受する被害者の権利を尊重し、被害者、生存者、将来世代の苦難への共感を維持し、この分野の国際法を再確認することを認識し、

2005年4月19日、人権委員会が2005/35 決議により、国際人権法の重大な違反および国際人道法の深刻な違反の被害者に対する救済および賠償の権利に関する基本原則およびガイドラインを採択し、経済社会理事会が2005年7月25日の2005/30決議によって総会に基本原則とガイドラインの採択を勧告したことを想起し、

1.本決議の別紙の通り、国際人権法の重大な違反および国際人道法の深刻な違反の被害者に対する救済および賠償の権利に関する基本原則およびガイドラインを採択する。

2.各国が基本原則とガイドラインを考慮に入れ、それを尊重し、政府の執行機関、特に警察官、軍隊、治安部隊、立法機関、司法機関、被害者及びその代理人、人権活動家及び弁護士、メディア、及び一般大衆の注意を喚起することを勧告する。

3.国連事務総長に対し、政府、政府間組織、非政府組織への伝達、国連が出版する「人権:国際文書集」への掲載を含む、国連のすべての公用語で基本原則とガイドラインを可能な限り広く普及させるための措置を講じるよう要請する。

第64回全体会議
2005年12月16日

(別紙)

国際人権法の重大な違反および国際人道法の深刻な違反の被害者に対する救済および賠償の権利に関する基本原則とガイドライン

前文

国連総会は、
多数の国際文書中の国際人権法違反の被害者に救済を受ける権利を定める条項、とりわけ世界人権宣言第8条、国際人権規約(自由権規約)第2条、人種差別撤廃条約第6条、拷問禁止条約第14条、子どもの権利条約第39条を想起し、また、1907年10月18日のハーグ陸戦条約(Ⅳ)第3条、1949年8月12日のジュネーヴ諸条約第一追加議定書第91条、国際武力紛争被害者の保護に関する1977年6月8日のジュネーヴ諸条約第一追加議定書、国際刑事裁判所に関するローマ規程第68条および75条のような国際人道法も想起し、

各地域条約中の国際人権侵害の被害者の救済の権利を定める条項、とりわけ人及び人民の権利に関するアフリカ憲章第7条、米州人権条約第25条、欧州人権条約第13条を想起し、

第7回犯罪防止および犯罪者の処遇に関する国連会議の審議において発議された犯罪被害者と権力濫用の被害者に関する司法の基本原則宣言、同会議の勧告した案文を採択した1985年11月29日の国連総会40/34決議を想起し、

被害者は同情をもって処遇され、尊厳を尊重されねばならず、司法と救済手段へのアクセス権を有することが充分に尊重され、被害者のための適切な権利と救済策の迅速な発展とともに、被害者への補償のための国家の基金の設立、強化、拡大が奨励されるべきであることを含む、犯罪被害者と権力濫用の被害者に関する司法の基本原則宣言で表明された原則を再確認し、

国際刑事裁判所ローマ規程は「被害者または被害者側への原状回復、補償、名誉回復を含む賠償に関する原則」の制定と、締約国会議による同裁判所の管轄下の犯罪被害者とその家族のための信託基金の設立を要求し、同裁判所に「被害者の安全、身心の健康、尊厳およびプライバシーを保護」し「裁判所によって適切であると判断された」すべての「手続の段階」で被害者の参加を許可することを命じたことを留意し、

これらの基本原則とガイドラインは、その行為の重大性により人間の尊厳に対する侮辱を 構成する、国際人権法の重大な違反と国際人道法の深刻な違反に向けられるものであることを確認し、

これらの基本原則とガイドラインは、新たな国際的または国内的法的義務を伴うものではなく、別個の規範ではあるが相互に補完する国際人権法および国際人道法に基づく既存の法的義務を実施するための過程、手順、手続及び方法を特定するものであることを強調し、

国際法は、国家の国際的義務と国内法の要求又は国際司法機関の適用法令の規定に従い特定の国際犯罪の加害者を訴追する義務を規定し、その訴追義務は国内的な法的要件や手続に従って実行されるべき国際的な法的義務を強化し、補充性の原則の概念を支持することを想起し、

現代的な形態の迫害は、本質的には人を対象としているが、集団的に標的にされる人々を対象とする場合があることに留意し、

被害者の救済と賠償を得る権利を尊重することにより、国際社会は被害者、生存者、将来の世代との信頼を維持し、責任、正義、法の支配という国際法の原則を再確認することを認識し、

下記の基本原則とガイドラインに従い被害者中心の観点を採ることにより、国際社会は国際人権法と国際人道法の違反を含む国際法違反の被害者及び全人類との人間としての連帯を再確認し、

次の基本原則とガイドラインを採択する。

I.国際人権法および国際人道法を尊重し、尊重と実施を保障する義務

1. 関係法規の下で認められる国際人権法および国際人道法を尊重し、尊重と実施を保障する義務は下記から生じる。
(a)当該国家が締約国である条約
(b)慣習国際法
(c)各国の国内法

2.国内法が未だに国際法の要求する義務に合致していない場合、各国は国際法の要求に従い、下記の方法により国内法と国際法上の義務との合致を確保しなければならない。
(a)国際人権法および国際人道法の規範を国内法に編入し、または国内法制度によってそれらを実施する。
(b)適切で実効的な立法・行政手続及びその他の適切な措置を採用し、公正で実効的かつ迅速な司法へのアクセスを提供する。
(c)以下に定義する、賠償を含む実効的、迅速かつ適切で十分な救済策を提供する。
(d)国際的義務により要求される水準と少なくとも同等の被害者保護を国内法により提供することを保障する。

II.義務の範囲

3. 関係法規により認められる国際人権法および国際人道法を尊重し、尊重と実施を保障する義務には、特に下記の義務が含まれる。
(a)違反を防止するため、適切な立法上・行政上及びその他の適切な措置を講じる。
(b)違反を実効的、迅速、徹底的かつ公平に調査し、必要に応じて、国内法および国際法により責任があるとされる者に対して行動を起こす。
(c)人権法または人道法違反の被害者であると主張する者に、最終的に誰が違反の責任を負うかに関わらず、下記に述べる平等で実効的な司法アクセスを提供する。
(d)下記に述べる賠償を含む実効的な救済を提供する。

III.国際人権法の重大な違反および国際法上の犯罪を構成する国際人道法の深刻な違反

4.国際人権法の重大な違反および国際法上の犯罪を構成する国際人道法の深刻な違反の場合、国家は調査する義務があり、十分な証拠がある場合には違法行為に責任があるとされた者を起訴する義務があり、有罪と判断された場合には処罰する義務がある。さらにこれらの場合、国家は国際法に従い、これらの違反の調査と訴追の権限のある国際司法機関と協力し、または支援しなければならない。
5.そのために、適用される条約またはその他の国際法上の法的義務のもとで規定されている場合には、国家は国内法に適切な規定を編入することにより、またはその他の方法によって普遍的管轄権を実施しなければならない。さらに、適用される条約または他の国際的な法的義務の下でそのように規定されている場合には、国家は、他国および適切な国際司法機関への犯罪者の引渡し、または引渡の促進をしなければならず、国際司法の遂行において、国際人権法の基準に合致し、拷問の禁止やその他の残虐で非人道的または屈辱的な処遇や処罰に関する国際法上の要求に従って、被害者と証人への支援と保護を含む、司法扶助その他の協力を提供しなければならない。

IV. 時効

6. 適用される条約またはその他の国際法の法的義務のもとで規定されている場合には、国際人権法の重大な違反および国際法上の犯罪を構成する国際人道法の深刻な違反には、時効を適用してはならない。

7.民事請求およびその他の手続に適用される時効を含む、国際法上の犯罪を構成しないその他の種類の違反に対する国内法上の時効は、みだりに制限すべきではない。

V.国際人権法の重大な違反および国際人道法の深刻な違反の被害者

8.本文書の目的上、被害者とは、国際的人権法の重大な違反または国際人道法の深刻な違反行為にあたる作為または不作為により、身心の傷害、感情的苦痛、経済的損失または基本的権利の本質的な侵害を含む損害を個人または集団で被った者をいう。必要な場合には、国内法に従い、「被害者」という用語には、直接被害者の直系親族または扶養家族、および苦境にある被害者を支援するため、または加害行為を阻止するために介入した際に被害を受けた者を含む。
9.違反の加害者の特定、逮捕、起訴、有罪判決の有無に関わらず、また加害者と被害者との親族関係の有無に関わらず、人は被害者とみなされる。

VI. 被害者の処遇

10.被害者は人道的に処遇し、尊厳と人権を尊重し、彼らの家族とともに、安全および心身の健康とプライバシーを保障するための適切な措置が講じられなければならない。国家は可能な限り、暴力やトラウマに苦しめられている被害者に国内法において特別の配慮を与え、司法の執行と賠償を提供するために設けられた法的及び行政的手続の過程で再トラウマ化を避ける配慮がなされることを保障しなければならない。

VII. 被害者の救済の権利

11.国際人権法の重大な違反および国際人道法の深刻な違反に対する救済には、国際法により規定される下記の被害者の権利が含まれる。
(a)司法への平等かつ実効的なアクセス。
(b)被った損害に対する充分で実効的かつ迅速な賠償。
(c)違法行為と賠償制度に関する適切な情報へのアクセス。

VIII. 司法へのアクセス

12.国際人権法の重大な違反または国際人道法の深刻な違反の被害者は、国際法に基づいて規定されている実効的な司法救済に平等にアクセスできなければならない。被害者が利用できるその他の救済策には、行政機関やその他の機関へのアクセス、国内法に従って実施される制度、手順、手続が含まれる。国際法の下で生じ、司法にアクセスする権利と公正で公平な手続を保障する義務は、国内法に反映されなければならない。この目的のため、国家は下記の事項を実行しなければならない。
(a)国際人権法の重大な違反および国際人道法の深刻な違反に対して利用可能なすべての救済策に関する情報を、公的および私的手段を通じて普及する。
(b)被害者の利益に関わる司法・行政その他の手続中及びその前後を通じて、被害者とその代理人の負担を最小限に抑え、必要に応じてプライバシーへの違法な干渉から保護し、被害者、家族及び証人に対する脅迫と報復からの安全を保障する措置を講じる。
(c)司法へのアクセスを求めている被害者に適切な支援を提供する。
(d)被害者に国際人権法の重大な違反または国際人道法の深刻な違反に対する救済の権利の行使を保障するためのすべての適切な法的、外交的および領事的手段を利用可能にする。

13.個人の司法アクセスに加え、国家は被害者の集団が賠償請求を提起し、適切な賠償を受けることを可能にする手続を制定するよう努めなければならない。

14.国際人権法の重大な違反または国際人道法の深刻な違反に対する充分で実効的かつ迅速な救済には、個人が法律的地位を有し、他のいかなる国内的救済を妨げることのない、全ての利用可能で適切な国際的手続が含まれねばならない。

IX. 損害の賠償

15.充分で実効的かつ迅速な賠償は、国際人権法の重大な違反または国際人道法の深刻な違反を是正することにより、正義を促進することを目的とする。賠償は違反と被害の重大性の程度に比例しなければならない。国家はその国内法および国際的な法的義務に従い、国際人権法の重大な違反または国際人道法の深刻な違反を構成する可能性のあるその国家の作為または不作為の被害者への賠償を提供しなければならない。人、法人、またはその他の団体が被害者への賠償責任を負うと判断された場合、そのような当事者は被害者に賠償を提供しなければならず、国家がすでに被害者への賠償を提供している場合には国家に補償しなければならない。
16.被った損害の責任を負うべき当事者がその義務を履行できず、または履行しようとしない場合、国家は被害者への賠償およびその他の支援のための国家計画を設立するよう努めなければならない。

17.国家は被害者の請求に関し、被った損害について責任を負う個人または団体に対する賠償の国内判決を執行し、国内法および国際法的義務に従って、有効な外国の賠償判決を執行するよう努めなければならない。そのために、国家は国内法の下で賠償判決の執行のための実効的な制度を提供しなければならない。

18.国内法および国際法に従い、個々の事情を考慮して、国際人権法の重大な違反および国際人道法の深刻な違反の被害者は、必要に応じ、また違反の重大性および個々のケースの事情に比例して、原則19から23に規定されているように、完全で実効的な賠償が提供される。賠償には、原状回復、補償、リハビリテーション、満足および再発防止の保障が含まれる。

19.原状回復は、可能な限り、被害者を国際人権法の重大な違反または国際人道法の深刻な違反が発生する前の元の状態に戻さねばならない。原状回復には状況に応じて、自由、 人権の享受、アイデンティティ、家族生活および市民権の回復、居住地への帰還、雇用の回復および財産の返還が含まれる。

20.補償は、国際人権法の重大な違反および国際人道法の深刻な違反に起因する下記のようなすべての経済的に評価可能な損害に対し、違反の重大性と各ケースの状況に比例して提供されなければならない。
(a)心身の傷害
(b)雇用、教育および社会福利を含む機会の喪失
(c)物質的損害と遺失利益を含む収入の損失
(d)精神的損害
(e)法律または専門家の援助、医療と薬品、心理的治療及び社会サービスの費用

21.リハビリテーションには、法的および社会的サービスだけでなく、医学的および心理的ケアも含めなければならない。

22.満足は、該当する場合、以下のいずれかまたはすべてが含まれねばならない。
(a)継続的な違反の停止を目的とした実効的な措置。
(b)事実の検証および真実の完全かつ公の開示。但し、そのような開示により被害者、被害者の親族、証人、または被害者の支援や更なる違反の発生防止のために介入した者を更に傷つけ、またはその安全と利益を脅かしてはならない。
(c)失踪者の行方の捜索、誘拐された子どもの身元特定、殺害された者の遺体の捜索、および被害者が表明した意思、推測される被害者の意思、又は家族やコミュニティの文化的習慣に従った遺体の回収、身元特定、改葬。
(d)被害者および被害者と密接に関係する者の尊厳、名誉および権利を回復する公式の宣言または司法判決。
(e)事実の認定と責任の承認を含む公的な謝罪。
(f )違反の責任者に対する司法上および行政上の制裁。
(g)被害者への記念と追悼。
(h)国際人権法および国際人道法の法教育およびすべてのレベルの教材に、発生した違反の正確な説明を含める。

23.再発防止の保障が必要な場合、防止に貢献する以下の対策のいずれかまたは全てを含めなければならない。
(a)軍および治安部隊に対する実効的な文民統制の確保。
(b)すべての民事および軍事訴訟手続における適正手続、公正、公平の国際基準の遵守の確保。
(c)司法の独立性の強化。
(d)法律、医療衛生の専門家、メディアおよびその関連職、人権活動家の保護。
(e)人権および国際人道法に関する社会のすべての部門における教育の優先的かつ継続的な提供と、警察官、軍隊および治安部隊への訓練の実施。
(f)警察、矯正、メディア、医療、心理、社会サービスおよび軍人を含む公務員ならびに経済的企業の行動・倫理規範、特に国際基準の遵守の促進。
(g)社会的紛争の防止および監視、ならびに解決のための制度の促進。
(h)国際人権法の重大な違反および国際人道法の深刻な違反を助長または容認する法律の再調査と改正。

X.違反と賠償制度に関する情報へのアクセス

24.国家は、一般大衆、特に国際人権法の重大な違反および国際人道法の深刻な違反の被害者に、これらの基本原則およびガイドラインにより言及された権利と救済、および利用可能なすべての法律、医療、心理、社会、行政、その他の被害者がアクセスする権利を有する可能性のあるすべてのサービスの情報を提供する手段を開発、促進しなければならない。さらに、被害者とその代理人は、彼らの被害の原因、および国際人権法の重大な違反と国際人道法の深刻な違反の原因と状況に関する情報を探索し、入手し、これらの違反の真相を理解する権利を与えられなければならない。

XI. 非差別

25.これらの基本原則とガイドラインの適用と解釈は、国際人権法および国際人道法と調和し、例外を認めることなくいかなる種類や理由の差別も排除して行われなければならない。

XII. 非軽減

26.これらの基本原則およびガイドラインは、国内法および国際法の下で生じるいかなる権利または義務も制限または軽減するものと解釈されてはならない。特に、本基本原則およびガイドラインは、国際人権法および国際人道法のすべての違反の被害者に対する救済および賠償の権利に影響を与えないものと理解される。さらに、これらの基本原則とガイドラインは、国際法の特別の規則にも影響を与えないものと理解される。

XIII. 他者の権利

27.この文書のいかなる内容も、国際的または国内的に保護されている他者の権利、特に被告人が適正手続の適用基準を享受する権利を損なうものと解釈されてはならない。

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