2021年2月19日
AL JPN 2/2021
閣下
我々は人権理事会決議43/36、44/3、43/6、及び43/8に基づき、現代的形態の人種主義、人種差別、外国人嫌悪および類似の不寛容に関する特別報告者、教育の権利に関する特別報告者、移民の人権に関する特別報告者、並びにマイノリティ問題に関する特別報告者としての立場で申し入れを行う栄誉を有する。これに関連して、我々は、最近設立されたプログラムである「『学びの継続』のための『学生支援緊急給付金』」に関して受領した情報について日本政府に対し注意を喚起したい。我々は、このプログラムが、日本が締約国である経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(ICESCR、社会権規約)及び人種差別撤廃条約(ICERD)を含む国際人権法上の日本の義務を遵守していないことを懸念する。
受領した情報によれば
2020年5月19日、文部科学省は新しいプログラム「『学びの継続』のための『学生支援緊急給付金』」を発表した。このプログラムは、新型コロナウイルス感染症の流行により経済的に困難な状況にある学生を支援することを目的としており、学生が高等教育を継続できるよう、学生支援緊急給付金という現金を振込むもので、対象となるのは、大学・短期大学、高等専門学校、専門学校及び法務省が適格と認めた日本語教育機関に通う学生である。対象となる学生は、所属する高等教育機関を通じて申請し、高等教育機関が申請書を審査し、日本学生支援機構(JASSO)に推薦状を提出する。
しかし、このプログラムの資格基準は、少なくとも2つの点で、平等と差別禁止の問題を提起している。第一に、このプログラムでは、日本語教育機関の学生を含む外国人留学生に対する追加基準が設定されている。例えば、留学生は「優れた」学業成績を証明する必要がある。具体的には、前学年の平均成績が2.30以上でなければならない。
第二に、この現金支給は、3つのカテゴリー(1条校、専修学校、各種学校)のほとんどの学校と日本語学校に適用されるようであるが、「各種学校」に分類される朝鮮大学校(東京)の学生は、このプログラムの対象から除かれている。また、規定では外国人が主に通う専修学校も対象から除外されている。このような除外は、人種、民族、出身国を理由とした差別禁止に違反する可能性がある。
外国人留学生が直面する困難は学業成績とは無関係である。実際に、JASSOの調査によると、日本の自費留学生の厳しい生活状況が明らかになっている。2017/2018年には、このグループの約75%がアルバイトに頼っており、収入の50%を占めている。日本では5月25日に非常事態宣言が解除されたが、パンデミックの重大な経済的影響は、留学生が教育資金を調達する上で引き続き障壁となりそうである。
我々は、提供された情報の正確さを予断することを望まず、また、パンデミックにより日本政府が直面している課題を認識し、学生支援を目的とした施策の採用を歓迎するが、緊急学生支援給付プログラムのいくつかの側面について懸念を表明する。我々は、優秀な学業成績を含む追加基準によって留学生が経済援助から除外されることが、留学生が平等に教育を受ける権利の享受を阻害するのではないかと懸念する。このプログラムは、支援を必要としている留学生の資格を奪うことにより、彼らの教育継続を危険にさらすだけでなく、彼らの経済的・社会的権利にも悪影響を与える。
人種差別撤廃国際条約(ICERD)は市民と非市民の区別を規定しているが、特に世界人権宣言、社会権規約、自由権規約により認められた権利を傷つけたり損なったりするものと解釈してはならない。
パンデミックの危機は、経済的に困難な状況にある外国人学生を含む最も疎外された人々の苦しみを悪化させる可能性が高い。この点において、このプログラムは、救済されるべき前例のない状況に不適切なばかりか、公平性や比例性の原則を尊重していないように見える。留学生に追加の基準を課して異なる扱いをすることは、区別の基準が正当な目的の達成に比例していないため、人種差別撤廃国際条約で禁止されている差別に該当する可能性がある。市民と非市民の間の権利の享受における平等を国際法で認められている範囲で保障するために、このようなプログラムは、関係する個人またはグループのニーズに基づいて設計・実施されるべきであり、この場合、現状で直面している学生の社会経済的な状況に焦点を当てるべきである。
我々は、このプログラムが非1条校に通う学生、特に朝鮮大学校の少数民族の学生を差別することを同様に懸念している。そのような排除は、これらの学校の制度的自治を損なう危険性がある。このことは少数民族の学生の国民的、民族的、文化的、言語的アイデンティティーを促進する教育へのアクセスをさらに危うくする。
上記の申立ての事実および懸念に関連し、これらの申立てに関係する国際人権法文書および基準を引用した国際人権法への参照に関する付属文書を参照頂きたい。
我々の注意を要するものとされる全ての事案について明確にすることが、国連人権理事会により我々に与えられた任務の下での責任であることから、下記の点についての日本政府の見解をお示し頂きたい。
1. 上記の申立てについて追加の情報やコメントがあればお示しいただきたい。
2. 「『学びの継続』のための『学生支援緊急給付金』」の実施状況、および留学生と少数民族が学ぶ高等教育機関での学習継続を促進するために実施されている措置について、関係するすべての情報を提供して頂きたい。
3. 少数民族の権利保護と良質な教育への平等なアクセスを確保するために日本政府が実施した措置について、詳細な情報を提供して頂きたい。
4. 新型コロナウィルスが高等教育を受ける学生の教育、労働、社会保障、健康、その他の生活関連分野の権利に与える影響に対処するために検討・実施された追加措置に関する情報を提供して頂きたい。
本コミュニケーション及び日本政府から受領したいかなる回答も、60日以内にコミュニケーション報告サイトを通じて公表する。また、その後、人権理事会に提出される通常の報告書において入手可能となる。
我々は、回答を待つ間、申し立てられている人権侵害の停止と再発防止のための必要なあらゆの暫定措置を講じること、そして調査によって申立てが正確であると裏付けられるか、又は正確であることが示唆された場合は、申し立てられている人権侵害に責任を有する人物の説明責任を確保することを求める。
我々は、近い将来、公に我々の懸念を示す可能性がある。我々の見解では、プレスリリースの依拠する情報は、即時の注目を要する正当な理由がある問題であることを示すのに十分に信頼できるものであろう。我々は、さらに、上述の申立ての潜在的含意について、幅広く公衆に知らしめるべきであると信じている。また、同プレスリリースにおいては、問われている問題を明確化するために、日本政府と連絡を取っていることを示すであろう。
現代的形態の人種主義、人種差別、外国人嫌悪および類似の不寛容に関する特別報告者
E. Tendayi Achiume
教育の権利に関する特別報告者
Koumbou Holy Barry
移民の人権に関する特別報告者
Felipe González Morales
マイノリティ問題に関する特別報告者
Femand de Varennes
(付属文書)国際人権法の参照
我々は、日本が1979年に加盟した社会権規約のいくつかの条項、特に、十分な生活水準に対するすべての者の権利に関する第11条、健康に対する権利に関する第12条、高等教育の権利を含む教育に対する権利に関する第13条に、日本政府の注意を喚起したい。これらの規定は、人種、皮膚の色、性別、言語、宗教、政治的意見またはその他の意見、国籍または社会的出身、財産、門地その他の地位によるいかなる差別もなしに、この規約に掲げられた権利が行使されることを各国が保障することを定めた第2条と併せて読まれなければならない。
我々は、少数者の保護に関する国際基準、特に「民族的または種族的、宗教的および言語的少数者に属する者の権利に関する国連宣言」の第1条1項に日本政府の注意を喚起する。第1条1項は、「国家は、各自の領域内で少数者の存在並びにその国民的又は種族的、文化的、宗教的及び言語的独自性を保護し、また、その独自性を促進するための条件を助長しなければならない」としている。 第2条1項は、少数者に属する者は、内密に及び公然と、自由にかついかなる形態の差別もなしに、自已の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し、及び自己の言語を使用する権利を有することを定めている。第4条2項は、国家は、少数者に属する者がその特性を表示しかつその文化、言語、宗教、伝統及び習慣を発展させるのを可能とする有利な条件を創出するために措置をとらなければならないと定めている。第4条3項は、少数者に属する者がその母語を学び又はその母語を教授する充分な機会を得るように適当な措置をとることを国家に求めている。
我々はさらに、日本が1979年に批准した市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)の規定について日本政府に注意を喚起したい。同規約第27条は、種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する国において、当該少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに「自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する」権利を有するとしている。さらに、同規約第26条には宗教、言語、民族などの理由で事実上または実践上の差別を受けることなく平等であるという一般的な権利が含まれており、すべての者は、法律の前に平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有することを強調している。また、1992年の「民族的または種族的、宗教的および言語的少数者に属する者の権利に関する国連宣言」では、少数者に属する者がそのすべての人権及び基本的自由を、いかなる差別もなしにかつ法の前で完全に平等に、充分かつ効果的に行使できるよう確保するために必要な措置をとることが国家の義務であるとされている(第4条)ことにも言及したい。
また、1995年に日本政府が批准した「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」(ICERD)の第1条1項は、人種差別を「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう」と定義している。 また、第2条1項は、締約国に対し、個人および集団に対するあらゆる人種差別の行為または慣行を禁止し、撤廃することを求めている。 国家は、国および地方レベルの公的機関および組織が、第2条1項に規定された義務を遵守して行動することを保証しなければならない。
人種差別撤廃委員会の、市民でない者に対する差別に関する一般的勧告第30号は、教育の分野において、経済的、社会的および文化的権利の、市民でない者による享有を妨げる障害を排除しなければならないことを強調している(29節)。さらに30節では、初等・中等教育や高等教育へのアクセスに関して、人種、肌の色、血統、国籍や民族を理由に、市民でない者に分離された学校教育や異なる取扱基準が適用されることを避けるよう求めている。最後に、締約国に対し、市民でない者に対して、その文化的アイデンティティを否定する慣行を防止するために必要な措置をとること、ならびに、市民でない者がその文化を維持し、発展させることができるようにする措置をとることを求めている(37節)。
経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(ICESCR)第15条は、少数民族および少数民族に属する個人が社会の文化的生活に参加する権利並びに自己の文化を保存、促進、発展させる権利の承認を締約国の義務と規定していることに言及したい。
我々は、移民の人権問題を取り上げ、「世界人権宣言および国際人権文書に準拠して、移民の地位にかかわらず、すべての移民、特に女性と子どもの人権および基本的自由の保護を実効的に促進する国家の義務を…再確認する」とした人権理事会決議915に日本政府の注意を喚起したい。 同決議は、「国家は、入国管理・国境警備制度を制定・実施する主権的権利を行使する際に、移民の人権の完全な尊重を確保するために、国際人権法を含む国際法上の義務を遵守する責務を負うことを再確認する」とも述べている。
最後に、「すべての移住労働者とその家族の権利保護に関する国連委員会」と「移民の人権に関する国連特別報告者」による「新型コロナウィルスパンデミックの移民の人権への影響に関する共同ガイダンスノート」[原注1] に、日本政府の注意を喚起したい。 このノートで専門家たちは、新型コロナウィルスパンデミックが、世界中の移住者とその家族に深刻かつ不均衡な影響を与えていることを警告している。不規則な状況または非正規の移住者は、さらに脆弱な状況にある。多くの場合、移民は以前から医療、教育、その他の社会サービスへの効果的なアクセス手段を持たず、不安定な仕事に就き、通常は社会保険や失業給付を受ける権利もない。また、社会への大きな経済的貢献にもかかわらず、国が実施する社会援助措置から取り残されているケースもある。この点について、専門家は各国に対し移民の地位にかかわらず、移民とその家族を経済復興政策や新型コロナウィルス対応計画・政策に含めるよう求めた。パンデミック後の持続可能で強靭な復興には、誰も取り残されないことが必要である。
= 原注 =
[原注1]Joint Guidance Note on the Impacts of the COVID-19 Pandemic on the Human Rights of Migrants.
= 訳注 =