1. 私見によれば主権免除に関する国際法の現段階を正確に反映している裁判所の判決に私は賛成票を投じた。
2. イタリアはドイツの国際人道法違反に関する民事訴訟を許容することにより、ドイツが国際法上享有する主権免除に違反したと裁判所は判断した。しかし、裁判所の判決は武力紛争時に拷問行為、人道に対する罪、国際人道法違反を行った国家に免罪符を与えるものと受け取られてはならないことを強調しておかねばならない。そうではなく、裁判所は本件の事実を検討し、ドイツが行った行為は主権行為であり、主権免除の例外が適用されないと結論づけたのである。したがって、ドイツはイタリア裁判所における訴訟からの免除を享受すると裁判所は判断したのである。
3. ドイツはその軍隊が第2次世界大戦中にイタリアで行った行為の重大な性質を認めた。裁判所は本判決第52項でこれを認めた。ただし、裁判所に提起された事件は第2次世界大戦中のドイツ軍隊の行為の適法性や、そのような行為についてのドイツの国際責任に関するものではない。本件の争点はドイツが武力紛争の遂行過程における軍隊の行為に関してイタリア国内裁判所で主権免除を適法に享受するかという問題に限定される。裁判所は主権免除の問題を解決するためにドイツの行為の適法性の論点について検討する必要がなかった。裁判所の本件についての管轄権は主権免除の問題の検討のみに完全に限定される。 ドイツの行為に関するその他の問題の検討は管轄権の範囲外であろう。ドイツが違法行為を行ったことについて当事者間に争いがないことや、その行為が国際人道法に対する深刻で重大な違反であったという事実が裁判所の管轄権を変更することはない。ドイツが管轄権に同意するか、その特定の行為について主権免除を享受しないと判断されない限り、当裁判所も外国の国内裁判所もドイツの行為の適法性やそのような行為に起因する補償問題について審査する管轄権を有しない。
4. 国家の軍隊を武力紛争に動員する決定は典型的な主権行為であるから、第2次世界大戦中のイタリアにおけるドイツ軍隊の行為が主権行為であることは明らかである。国家の軍隊が国際武力紛争の遂行のために行う行為は当然に主権の実行としての行為である。そのような行為は主権免除の対象ではないという見解は主権免除の概念からその趣旨と意義を奪うことになるであろう。主権免除の理論は主権の保護と主権の平等のために発展した。主権免除は、同意がない限りある国家を他国の管轄権の実行から保護することによってその目的を達成する。この理論は、国家間の主権平等を維持するため、国家をその主権の実行における行為についての訴訟から一般的に免除する。
5. 国家は主権行為について一般的に主権免除を享受するという原則は確立されている。問題はこの一般原則に対し、武力紛争時や占領の過程における外国領内での軍隊による違法行為について主権免除を否定する何らかの例外が存在するかである。法廷地国領内における損害賠償に関する件について、国家が主権免除を否定することを許容する例外が存在すると主張された。この例外は、ドイツ軍隊による国際不法行為の性格を有する行為について主権免除を拒否する資格をイタリアに与えるとも主張された。
6. 特定の類型の不法行為について主権免除に限定的な例外を認める方向に主権免除の法が進化してきたことについては争いがない。この例外は国連主権免除条約第12条に成文化されている。この条約は未だ発効していないが、第12条は現段階の慣習国際法を反映したものと見ることができる。同条は法廷地国の領域で発生した「国家によるものと主張される作為または不作為による人の死亡または負傷及び有体財産の損害についての金銭賠償手続においては」国家は主権免除を援用することができないと規定する。但し、この条約の条文に関する国際法委員会の注釈は、第12条の起草者らの意図は主に交通事故のような状況において保険会社が主権免除の陰に隠れて負傷した個人に対する責任を免れるのを防ぐことにあったと明言している。さらに、同注釈は第12条は武力紛争に関する状況には適用されないと述べる。国際法委員会が交通事故のような単発的な保険事故と武力紛争時の軍隊による行動を区別したことは理解できる。後者に関するケースでは国家にほとんど無制限の責任が生じるのに比べ、前者に関するケースでは不法行為国に限定的な責任しか生じない。したがって、前者は法廷地国の裁判権が扱うのに適しており、必然的に政治的な性質をもつ後者の場合には国家間による解決を追求せざるを得ないからである。
7. したがって、現在の国際法の下では国家は武力紛争時の軍隊による主権行為について主権免除を与えられる。現存する法の適用が裁判所の任務である以上、今日の裁判所の判決が主権免除の法の継続する進化を妨げることはできない。20世紀を通じ、主権免除の法は国家が免除を享受する場面を著しく制限する方向で大きく進化してきた。将来において主権免除の例外がさらに発展し続けることは可能である。裁判所は今日存在する法を適用するのである。
8. 私はギリシャの主張を検討し、確認することも重要であると考える。本件の非当事者参加国として、ギリシャは特に「人道法への重大な違反についての個人の補償請求権」を強調した陳述書を提出した(第34項)。ギリシャは国際人道法は「国家に対して直接請求する個人の権利」を与えていると主張する(第35項)。ギリシャはこの主張の根拠としてハーグ陸戦条約(1907)第3条、1949年8月12日ジュネーブ条約追加議定書(1977)第91条等を挙げた。
9. ギリシャは今日の国際人道法は個人を人権侵害に対する補償の最終的な受益者とみなしていることを正しく指摘した(国際法委員会国家責任条文草案第33条注3参照)。これは国際法における個人の権利の重要性の増大を反映した、まさに歓迎されるべき肯定的な進化である。しかし、これは外国に対して直接補償請求する法的権利を国際法が個人に付与したことを意味するものではない。ハーグ陸戦条約や1977年第1追加議定書はそのような主張の根拠とはならない。これらの条約の関連条文は単に国家は条約の条文に違反した場合に「補償を支払」わねばならないと規定するに過ぎない。それらは被害者個人に直接補償を支払うことを国家に要求する趣旨ではない。その上、全体の文脈から読むと、二つの条約はそのような方法による補償を規定していない。実際、ハーグ陸戦条約が締結された1907年には個人の権利が今日のような範囲では認められていなかったから、国家に個人に対する支払を国家に要求することは想像もつかないことであった。
10. 結論として、ドイツ軍隊の行為は主権行為に該当し、主権免除の原則に対する例外は適用されないから、ドイツは第2次世界大戦中にイタリアで行った軍隊の行為について主権免除を享受すると、裁判所は正しく判断した。ただし、この判断は両当事者が本件の審理過程で明らかになった問題解決のために交渉することを妨げるものではない。また、本件の事実的・歴史的文脈における正義の達成のために、主権国家の維持と国家主権の平等を適正に保護している主権免除について現存する法を廃止することを余儀なくされるものでもない。
(署名)アブダル G.コロマ