国際司法裁判所
主権免除事件
(ドイツ対イタリア; ギリシャ訴訟参加)
2012年2月3日判決


目 次

訴訟の経緯 1-19
Ⅰ 歴史的及び事実的な背景 20-36
 1. 1947年の平和条約 22
 2. 1953年の連邦補償法 23
 3. 1961年の協定 24-25
 4. 「記憶、責任、未来」財団設立法 26
 5. イタリア裁判所における訴訟手続 27-36
  A. イタリア国民に関する事件 27-29
  B. ギリシャ国民に関する事件 30-36
II. 紛争の内容と裁判所の管轄権 37-51
III. イタリア人原告らによる手続における
  ドイツの主権免除に関して主張された違反 52-108
 1. 裁判所に係属する争点 52-61
 2. イタリアの第1の主張 ; 域内不法行為原則 62-79
 3. イタリアの第2の主張;イタリア裁判所における主張の内容と
   請求がおこなわれた状況 80-106
  A. 違反の重大性 81-91
  B. 強行規範と主権免除の関係 92-97
  C. 「最後の手段」の主張 98-104
  D. イタリアが主張する「事情の複合的効果」 105-106
 4. 結論 107-108
IV. イタリア領内に存在するドイツ財産に対してとられた強制措置 109-120
V. ドイツに対する民事請求を認容したギリシャ裁判所判決の
 イタリアにおける執行を承認したイタリア裁判所判決 121-133
VI. ドイツの最終申立と救済措置要請 134-138
主文


判 決

小和田所長、 トムカ副所長、 コロマ裁判官、シンマ裁判官、アブラーム裁判官、 キース裁判官、 セプルヴェダ・アモール裁判官、 ベヌーナ裁判官、 スコトニコフ裁判官、カンサード・トリンダージ裁判官、ユスフ裁判官、 グリーンウッド裁判官、 シュエ裁判官、 ドノヒュー裁判官、ガヤ特任裁判官、クーヴルール裁判所書記
当事国及び参加国代理人(略)
上記のとおり構成された裁判所は
合議の上
次のとおり判決する。

1. 2008年12月23日、ドイツ連邦共和国(以下「ドイツ」という)は、イタリア共和国(以下「イタリア」という)の「ドイツが国際法上享受する主権免除を尊重しない」裁判実行による「国際法上の義務違反」に関する紛争について、イタリアに対する手続開始請求を裁判所書記に提出した。ドイツは請求の中で当裁判所の管轄権の根拠として1957年4月29日の「紛争の平和的解決に関する欧州条約」第1条を援用した。

2. 裁判所規程第40条第2項により裁判所書記は直ちに請求をイタリア政府に通知し、同条第3項により当裁判所で裁判を受けることができる全ての国に請求について通告した。

3. 当裁判所の裁判官席にイタリア国籍の裁判官がなかったため、イタリアは裁判所規程第31条2項により本件に出席する特任裁判官を選定する権利を行使し、ジョルジオ・ガヤ(Giorgio Gaja)氏を選定した。

4. 2009年4月29日の命令により、裁判所はドイツの申述書の提出期限を2009年6月23日、イタリアの答弁書の提出期限を2009年12月23日と定めた。これらの書面は期限内に遅滞なく提出された。イタリアの答弁書には「ドイツ軍による国際人道法への重大な違反によりイタリア人被害者らに支払うべき賠償金の件に関する」反訴請求が含まれていた。

5. 2010年7月6日の命令により、裁判所はイタリアが提出した反訴請求は裁判所規則第80条第1項に照らし受理できないと決定した。同命令により裁判所はドイツに対して抗弁書の提出、イタリアに対して再抗弁書の提出を許可し、それらの書面の提出期限を2010年10月14日と2011年1月14日と定めた。これらの書面は期限内に遅滞なく提出された。

6. 2011年1月13日、ヘレニック共和国(以下「ギリシャ」と言う)は裁判所規程第62条に基づき訴訟参加許可の請求を裁判所書記に提出した。請求の中でギリシャは「本件の当事者となることを求めるものではない」と表明した。

7. 裁判所書記は裁判所規則第83条第1項にしたがい2011年1月13日の書簡により訴訟参加許可請求謄本をドイツ政府とイタリア政府に送付し、請求に対する意見書提出の期限を2011年4月1日と通知した。裁判所書記は同条第2項にしたがい請求謄本を国連事務総長に送付した。

8. ドイツとイタリアはギリシャの訴訟参加許可請求に対する意見書を所定の期限内に提出した。裁判所書記は各当事者の意見書を反対当事者に送付し、両当事者の意見書をギリシャに送付した。

9. 裁判所規則第84条第2項及び両当事者が異議を述べなかった事実に照らし、裁判所はギリシャの訴訟参加許可を承認するか否かについて弁論を行う必要はないと判断した。但し裁判所はギリシャに両当事者の意見に対して意見を述べる機会を与えるべきであり、両当事者には追加意見書の提出を認めるべきであると判断した。裁判所はギリシャの意見書提出期限を2011年5月6日、これに対する両当事者の追加意見書の提出期限を2011年6月6日と定めた。ギリシャの意見書と両当事者の追加意見書は所定の期限内に提出された。裁判所書記はギリシャの意見書謄本を両当事者に、両当事者の追加意見書謄本をギリシャに遅滞なく送付した。

10. 2011年7月4日の命令により裁判所はイタリア裁判所がイタリア国内での執行を認めたギリシャ裁判所の判決に関する限りにおいてギリシャに非当事者として本件に訴訟参加することを許可した。裁判所は、裁判所規則第85条第1項にしたがい陳述書と意見書の提出期限をギリシャの陳述書は2011年8月5日、ドイツとイタリアの意見書は2011年9月5日と指定した。

11. ギリシャの陳述書とドイツの意見書は指定の期限内に遅滞なく提出された。2011年9月1日付の書簡により、イタリアの代理人はイタリア共和国は現段階ではギリシャの陳述書に対する意見を述べないが「口頭手続のなかで必要があれば陳述書の特定の事項について言及する地位と権利を留保する」と表明した。裁判所書記はギリシャの陳述書の謄本を遅滞なく両当事者に送付し、ドイツの意見書の謄本をイタリアとギリシャに送付した。

12. 裁判所規則第53条第2項により裁判所は当事者の見解を確認した後、訴答書面及び付属書類の謄本を口頭手続の開始の時に公開することを決定した。両当事者及びギリシャと協議した後、裁判所は訴訟参加国の陳述書とこの陳述書に対するドイツの意見書も同様とすることを決定した。

13. 公開弁論は2011年9月12日から16日まで行われ、裁判所は下記の口頭の弁論と反論を聴取した。
ドイツについては、
Ms Susanne Wasum-Rainer,
Mr. Christian Tomuschat,
Mr. Andrea Gattini,
Mr. Robert Kolb.
イタリアについては、
Mr. Giacomo Aiello,
Mr. Luigi Condorelli,
Mr. Salvatore Zappala,
Mr. Paolo Palchetti,
Mr. Pierre-Marie Dupuy.
ギリシャについては、
Mr. Stelios Perrakis,
Mr. Antonis Bredimas.

14. 弁論において裁判官から両当事者と参加国ギリシャに質問がなされ、それらは書面で回答された。両当事者はそれらの書面について意見書を提出した。

15. ドイツはその請求の中で次の要請をした。

「ドイツは裁判所が下記の通り判断し宣告するよう要請する。
イタリア共和国は、
(1)第二次世界大戦中の1943年9月から1945年5月にかけてのドイツによる国際人道法違反についてのドイツ連邦共和国に対する民事訴訟を許容する事により、ドイツ連邦共和国が国際法の下で享受する主権免除を尊重せず、国際法上の義務に違反した。
(2)政府の非商業的目的に使用されるドイツの国有財産であるヴィラ・ヴィゴーニ(Villa Vigoni)に対して強制的な措置をとることにより、やはりドイツの主権免除を侵害した。
(3)前記の要請(1)の記載と類似の事件についてのギリシャ判決がイタリアでの執行を承認することにより、ドイツの主権免除をさらに侵害した。
よって、ドイツ連邦共和国は裁判所が下記について判断し宣告するよう要請する。
(4)イタリア共和国は国際的責任を負う。
(5) イタリア共和国は自らの選択により、ドイツの主権免除を侵害する裁判所その他の司法機関の決定を無効にするためのあらゆる措置を講ずることを保証せねばならない
(6) イタリア共和国はイタリアの裁判所が将来において上記要請(1)で述べた事件についての法的措置をドイツに対してとらないための全ての措置を講じなければならない。」

16. 書面手続の過程において当事者らによって下記の申立がなされた。

ドイツ政府を代表し
申述書と抗弁書において
「ドイツは裁判所が下記の通り判断し宣告するよう要請する。
イタリア共和国は
(1) 第二次世界大戦中の1943年9月から1945年5月にかけてのドイツによる国際人道法違反についてのドイツ連邦共和国に対する民事訴訟を許容することにより、ドイツ連邦共和国が国際法の下で享受する主権免除を尊重せず国際法上の義務に違反した。
(2) 政府の非商業的目的に使用されるドイツの国有財産であるヴィラ・ヴィゴーニに対して強制的な措置をとることにより、やはりドイツの主権免除を侵害した。
(3) 前記の要請(1)の記載と類似の事件についてのギリシャ判決のイタリアでの執行を承認することにより、ドイツの主権免除をさらに侵害した。
よって、ドイツ連邦共和国は裁判所が下記について判断し宣告するよう要請する。
(4) イタリア共和国は国際的責任を負う。
(5) イタリア共和国は自らの選択により、ドイツの主権免除を侵害する裁判所その他の司法機関の決定を無効にするためのあらゆる措置を講ずることを保証せねばならない
(6) イタリア共和国はイタリアの裁判所が将来において上記要請(1)で述べた事件についての法的措置をドイツに対してとらないための全ての措置を講じなければならない。」

イタリア政府を代表し、答弁書と再抗弁書において、
「(イタリアの答弁書と再抗弁書で)述べた事実と主張にもとづき、これらの申立に対する追加と修正の権利を留保しつつ、裁判所がドイツの全ての請求を棄却するよう要請する。」

17. 口頭手続において、両当事者から下記の最終申立がなされた。

ドイツ政府を代表し
「ドイツは裁判所が下記の通り判断し宣告するよう要請する。
イタリア共和国は
(1) 第二次世界大戦中の1943年9月から1945年5月にかけてのドイツによる国際人道法違反についてのドイツ連邦共和国に対する民事訴訟を認める事により、ドイツ連邦共和国が国際法の下で享有する主権免除を尊重せず国際法上の義務に違反した。
(2) 政府の非商業的目的に使用されるドイツの国有財産であるヴィラ・ヴィゴーニに対して強制的な措置をとることにより、やはりドイツの主権免除を侵害した。
(3) 前記の要請(1)の記載と類似の事件についてのギリシャ判決のイタリアでの執行を承認することにより、ドイツの主権免除をさらに侵害した。
よって、ドイツ連邦共和国は裁判所が下記について判断し宣告するよう上申する。
(4) イタリア共和国は国際的責任を負う。
(5) イタリア共和国は自らの選択により、ドイツの主権免除を侵害する裁判所その他の司法当局の決定を無効にするためのあらゆる措置を講ずることを保証せねばならない
(6) イタリア共和国はイタリアの裁判所が将来において上記要請(1)で述べた事件についての法的措置をドイツに対してとらないための全ての措置を講じなければならない。」

イタリア政府を代表し、
「書面と口頭手続により述べられた理由により、イタリアは裁判所が原告の請求には根拠がないと判断することを要請する。この要請はヴィラ・ヴィゴーニに設定された抵当権登記の抹消をイタリアに義務づける裁判所のいかなる決定についてもイタリアは異議がないことを前提とするものである。」

18. 裁判所規則85条1項にしたがって提出された陳述書の末尾において、ギリシャは特に意見を述べている。

「主権免除について国際司法裁判所が下すであろう判決の効果は、イタリアの法秩序、そして間違いなくギリシャの法秩序にとって極めて重大である。
……
その上、人道法の基本的規則に対する違反を禁止する国際法上の強行規範に直面した場合の主権免除原則の効果についての国際司法裁判所の判断は、この点についてギリシャの裁判所の指針となるであろう。したがって、個人がギリシャ裁判所に提起した係属中又は将来の事件に対して重大な効果を及ぼすであろう。」

19. 裁判所規則第85条第3項による訴訟参加の内容についての口頭意見の末尾において、ギリシャは特に下記の意見を述べた。

「人道法の基本的規則に対する違反を禁止する国際法上の強行規範に直面した場合の主権免除原則の効果についての国際司法裁判所の判断は、この点についてギリシャの裁判所の指針となるであろう。…したがって、個人がギリシャ裁判所に提起した係属中又は将来の事件に対して重大な効果を及ぼすであろう。
……
主権免除について国際司法裁判所が下すであろう判決の効果はまずイタリアの法秩序、そして確実にギリシャの法秩序にとって極めて重大である。」

* * *


Ⅰ 歴史的・事実的背景

20. 裁判所は当事者間に概ね争いのない本件の事実的・歴史的背景を冒頭に簡単に述べておくことが有益であると思料する。

21. 1940年6月、イタリアはドイツの同盟国として第2次世界大戦に参戦した。1943年9月、ムッソリーニを権力から追放した後、連合国に降伏し、翌月ドイツに対して宣戦布告した。しかしドイツはイタリア領土の大部分を占領し、1943年10月から戦争の終了までに占領地の人々に対し民間人虐殺や多数の民間人を強制労働のために連行するなど多くの残虐行為を行った。その上ドイツ軍はイタリア国内とヨーロッパ各地において数十万人のイタリア軍を捕虜にした。これらの大部分の捕虜(以下「イタリア軍人収容者」という)は戦争捕虜としての地位を否定され、ドイツやドイツ占領地に強制労働のために連行された。

1 1947年の平和条約

22 第二次世界大戦後の1947年2月10日、連合国は特にイタリアとの戦争の法的・経済的結果を調整する平和条約をイタリアと締結した。平和条約77条は次の通り規定している。

「1この条約の実施からは、ドイツ国に在るイタリア国及びイタリア国民の財産は、もはや敵産として取り扱われることはなく、右取扱に基く一切の制限は取り除かれなければならない。
2 1943年9月3日後にドイツ国の軍隊又は官憲によって強力又は強迫によってイタリア国領域からドイツ国に運び去られたイタリア国及びイタリア国民の識別し得る財産は、返還される。
3 ドイツ国に在るイタリア国の財産の回復及び返還はドイツ国を占領中の諸国によって決定される措置に従って行われる。
4 ドイツ国と占領中の諸国によるイタリア国及びイタリア国民の利益のためにするこれら並びに他のいかなる規定をも害することなしに、イタリア国は、1945年5月8日現在のドイツ国及びドイツ国民に対する一切の未解決の請求権を自国のため及びイタリア国民のために放棄する。但し、1939年9月1日以前に締結された契約及び他の義務並びに右時期に取得された権利から生じたものは、これを除く。この放棄は、戦争中に締結された取極に関する金銭債権、政府間の一切の請求権及び戦争中に生じた損失又は損害に対する一切の請求権を含むものと認められる。」

2. 1953年の連邦補償法


23 1953年、ドイツ連邦共和国は特定の類型のナチ迫害被害者に補償をするために国家社会主義者の迫害被害者に対する連邦補償法(BEG)を制定した。連邦補償法の下でのイタリア国民からの多くの請求は、請求者が連邦補償法の定義する国家社会主義者の迫害被害者とみなされなかったり、連邦補償法の要求するドイツ内の住所や永住権を持たなかったため認められなかった。連邦補償法は1965年、国籍や非ドイツ系民族の構成員であることを理由に迫害された人々からの請求に対応するために改正されたが、依然として1953年10月1日時点での難民資格保有を対象者の要件としていた。連邦補償法が改正された1965年以降も多くのイタリア人の請求者は1953年10月1日に難民資格を保有していなかったため補償の適格者として認められなかった。連邦補償法の制定当初法及び1965年改正法の明文規定により外国籍の被害者からの請求はドイツ裁判所によって常に却下された。

3 1961年の協定


24 1961年6月2日、ドイツ連邦共和国とイタリアの間に二つの協定が締結された。1963年9月16日に発効した第一の協定は「特定財産に関する経済、財政問題の解決」に関する協定である。同協定第1条でドイツはイタリアに「経済的性格の未解決問題」のために賠償を支払うこととし、同協約第2条は次の通り規定する。

(1) イタリア政府は1939年9月1日から1945年5月8日までに生じた権利や事情に基づくイタリア共和国又はイタリアの自然人及び法人からドイツ連邦共和国又はドイツの自然人及び法人に対する全ての未払の請求が解決されたことを宣言する。
(2)イタリア政府はドイツ連邦共和国及びドイツの自然人・法人に対し、上記の請求に関連するイタリアの自然人・法人によって行われる可能性のある全ての裁判手続その他の法的措置からの免除を保障する。

25. 1963年7月31日に発効した第二の協定は「国家社会主義者の迫害政策の被害を被ったイタリア国民に対する補償」に関するものである。この協定の効果としてドイツはこれらの政策により被害を受けたイタリア国民に補償金を支払うことを約束した。この協定第1条でドイツは下記の趣旨でイタリアに4000万ドイツマルクを支払うことに同意した。

「その人種、宗教、信条により国家社会主義者の迫害政策の犠牲となり、その迫害政策の結果自由を失い又は健康を侵害されたイタリア国民のため、またはこれらの迫害による死亡者の遺族のために」

この協定第3条は下記のとおり規定している。

「ドイツの補償法によるイタリア国民のいかなる権利も侵害しないことを条件として、第1条による支払はドイツ連邦共和国とイタリア共和国間のこの条約に規定された全ての問題の最終的な解決となる。」

4 「記憶、責任、未来」財団設立法


26. 2000年8月2日、ドイツにおいて強制労働や「国家社会主義者時代のその他の不正義」の被害を受けた個人のための財団を設立する「記憶、責任、未来」財団設立連邦法(以下「2000年連邦法」という)が制定された。財団は2000年連邦法による金員を対象者に直接支払うのではなく、ジュネーブの国際移住機関を含む「協力組織」を通じて支払う。2000年連邦法は補償の資格に一定の制限をおいている。この条項の効果の一つは、強制収容所又はそれに準ずる収容所に収容された者を除き戦争捕虜の地位を有していた者を補償対象から除外することである。法案に記載されたこの条項の公式の注釈によれば、その理由は戦争捕虜は「国際法の規則によって抑留当局によって労働させられた可能性がある」からである(裁判所書記による翻訳)(連邦議会文書14/3206 2000.4.13)。
前記(第21項)のように、ドイツから戦争捕虜としての地位を否定されていた数千の元イタリア軍人収容者が2000年連邦法による補償を請求した。2001年、ドイツ当局は国際法の規則によればドイツはイタリア軍人収容者の地位を一方的に戦争捕虜から民間労働者に変更することはできなかったとの解釈を採用した。したがって、ドイツ当局によればイタリア軍人収容者は戦争捕虜の地位を失ったことはなく、その結果彼らは2000年連邦法による支給対象から除外されるというのである。イタリア軍人収容者から申立てられた補償要求はこの解釈によって大多数が却下された。それに対してドイツの裁判所に異議を申立て補償を求めた元イタリア軍人収容者による試みは成功しなかった。ドイツの裁判所はいくつかの判決において、当該個人は戦争捕虜であったので2000年連邦法による補償を受ける資格がないと判示した。2004年6月28日、ドイツ憲法裁判所の裁判部は戦争捕虜を補償から除外する2000年連邦法第11条第3項はドイツ憲法の保障する法の下の平等に違反せず、国際公法は強制労働について補償を受ける個人の権利を確立していないと判示した。
2004年12月20日、元イタリア軍人収容者の一グループが欧州人権裁判所にドイツを提訴した。2007年9月4日、同裁判所の裁判部は、その請求はヨーロッパ人権条約及び議定書の条文に照らし、「事項的管轄に適合」せず認められないと判示した(全国帰還兵協会 外275名対ドイツ事件 2007年9月4日判決)。

5. イタリア裁判所における訴訟手続


A. イタリア国民に関する事件

27. 1944年8月に拘束されてドイツに連行され終戦まで軍需工場での労働を強制されたイタリア国民のルイジ・フェッリーニ(Luigi Ferrini)氏が、1998年9月23日、イタリアのアレッツォの裁判所でドイツ連邦共和国を提訴した。2000年11月3日、アレッツォ裁判所はドイツは主権国家として主権免除により保護されているからルイジ・フェッリーニ氏の請求は許容されないと判示した。フィレンツェ控訴裁判所は2001年11月16日判決(2002年1月14日登録)において、同じ理由で原告の控訴を棄却した。2004年3月11日、イタリア破毀院は訴えられた行為が国際犯罪である場合には免除は適用されず、ルイジ・フェッリーニ氏のドイツに対する損害賠償請求についてイタリア裁判所は管轄権を有すると判断した(フェッリーニ対ドイツ連邦共和国事件判決)。事件はアレッツォ裁判所に差し戻され、同裁判所は2007年4月12日の判決において、裁判所は本件について管轄権を有するが賠償請求は時効により認められないと判示した。控訴審のフィレンツェ控訴院は2011年2月17日判決において、アレッツォ裁判所の判決を破棄し、ルイジ・フェリッーニ氏に対する賠償金とイタリアにおける訴訟手続で発生した訴訟費用の支払いをドイツに命じた。特にフィレンツェ控訴院は、主権免除は絶対的ではなく国際法上の犯罪を犯したとして訴えられている国家が援用することはできないと判示した。

28 イタリア破毀院の2004年3月11日フェッリーニ事件判決に続き、2004年4月13日にはトリノ裁判所で12人の原告がドイツに対して訴訟を提起した(ジョバンニ・マンテッリ他事件)。2004年4月28日、シャッカ裁判所でリベラト・マイエッタがドイツに対して訴訟を提起した。両事件とも1943年と1945年に発生したドイツにおける連行と強制労働に関するものであり、ドイツは管轄権不存在の抗告をイタリア破毀院に提出した。イタリア破毀院はジョバンニ・マンテッリ他事件及びリベラト・マイエッタ事件に関する2008年5月29日の二つの決定において、イタリア裁判所はドイツに対する請求について管轄権を有すると認めた。現在ドイツに対する多数の類似の請求がイタリア裁判所に係属中である。

29 イタリア破毀院は、ドイツ軍のヘルマン・ゲーリング師団の一員でありイタリアのチビテッラ、コルニア、サン・パンクラーツィオにおける1944年6月29日の虐殺に参加したとして訴追されたマックス・ジョセフ ミルデ(Max Josef Milde)氏に対する訴訟において、フェッリーニ判決の論理を別の文脈において確認した。ラ・スペツィア軍事裁判所はミルデ氏に欠席判決で終身刑を言い渡し、ミルデ氏とドイツに対し訴訟の民事参加人である虐殺犠牲者承継人らに連帯して賠償金を支払うよう命じた(2006年10月10日判決(2007年2月2日登録))。ドイツは判決のドイツ敗訴部分についてローマ軍事控訴裁判所に控訴した。2007年12月18日、軍事控訴裁判所は控訴を棄却した。イタリア破毀院は2008年10月21日判決(2009年1月13日登録)の中でドイツの管轄権不存在の主張を否定し、国際法上の犯罪のケースでは主権免除は適用すべきでないというフェッリーニ判決の論理を踏襲した。

B. ギリシャ国民に関する事件

30. ドイツがギリシャを占領していた1944年6月10日、ドイツ軍はギリシャのディストモ村で多数の民間人を虐殺した。1995年に虐殺犠牲者の親族らが人命と財産の損害についてドイツに対して訴訟を提起した。ギリシャのリヴァディア一審裁判所は1997年9月25日、ドイツに対して未宣告の判決書を送付し(法廷における宣告は1997年10月30日)、虐殺犠牲者らの承継人らに対する損害賠償を認容した。この判決に対するドイツの上訴は2000年5月4日、ギリシャ最高裁判所で棄却された。ギリシャ民事訴訟法第923条は外国に対する判決の執行については法務大臣の許可を要件としている。ディストモ事件の原告らは許可を請求したが、許可は得られなかった。その結果ドイツに対する判決はギリシャで執行されていない。

31. ディストモ事件の原告らは、(ドイツが)リヴァディア一審裁判所の1997年9月25日判決に従うことを拒否し、(ギリシャが)この判決の執行を許可しなかったことにより両国は欧州人権条約第6条第1項と同条約第1議定書第1条に違反したとして、両国を欧州人権裁判所に提訴した。欧州人権裁判所の2002年12月12日の判決は主権免除規則に言及し、原告等の請求は認められないと判示した (カロゲロプールー他対ギリシャ・ドイツ判決)。

32. ギリシャの原告らは1997年9月25日リヴァディア一審裁判所で宣告され、2000年5月4日にギリシャ最高裁判所で維持された判決をドイツで執行するための手続をドイツ裁判所に申請した。これに対する2003年6月26日判決において、ドイツ連邦最高裁判所はこれらのギリシャの司法判断はドイツの主権免除の権利を侵害しておりドイツの法秩序の下では承認され得ないと判示した (ギリシャ市民ら対ドイツ連邦共和国事件)。

33. そこでギリシャの原告らはディストモ事件ギリシャ裁判所判決をイタリアで執行しようとした。フィレンツェ控訴院は2005年5月2日判決(2005年5月5日登録)において、
ギリシャ最高裁判所判決のうち同裁判所における訴訟費用の支払命令はイタリアで執行できると判示した。2007年2月6日付(2007年3月22日登録)の決定においてフィレンツェ控訴院は上記決定に対するドイツの異議を却下した。イタリア破毀院は2008年5月6日付の判決(2008年5月29日登録)でフィレンツェ控訴院の決定を維持した。

34. 損害賠償の支払いについても、フィレンツェ控訴院は2006年6月13日の決定(2006年6月16日登録)において、1997年9月25日付のリヴァディア一審裁判所判決のイタリアでの執行を承認した。2008年10月21日付判決(2008年11月25日登録)において、フィレンツェ控訴院は上記決定に対するドイツ政府の異議を棄却した。イタリア破毀院は2011年1月12日付判決(2011年5月20日登録)においてフィレンツェ控訴院の決定を維持した。

35. 2007年6月7日、ギリシャの原告らはフィレンツェ控訴院2006年6月13日決定に従い、イタリア土地登記所コモ地方事務所において、コモ湖近郊にあるドイツ国有財産のヴィラ・ヴィゴーニに裁判上の抵当権を登記した。ミラノ地方法務局は2008年6月6日付申立書及びコモ裁判所において当該抵当権は取り消されるべきであると主張した。2010年4月28日政令第63号、2010年6月23日法律第98号、2011年12月29日政令第216号 により、国際司法裁判所の本件判決までの間裁判上の抵当権の効力が停止された。

36. 1995年にディストモ事件の訴訟が開始されたのに続き、ドイツに対するギリシャ国民によるもう一つの訴訟がギリシャ裁判所に提起された。1944年のギリシャのリドリキ村におけるドイツ軍の行為について賠償を求めるマリゲロス事件である。2001年、ギリシャ最高裁判所は主権免除規則がマリゲロス事件で問題となった行為に及ぶか否かについての判断を求め、同事件をギリシャ憲法第100条により「国際法の規範が一般に承認されたものであるかどうかについての議論の解決」について管轄権を有する最高特別裁判所に移送した。最高特別裁判所は、2002年9月17日の決定において、国際法の現在の発展段階ではドイツは主権免除を享受すると判断した(マリゲロス対ドイツ連邦共和国事件)。

II. 紛争の内容と裁判所の管轄権


37. ドイツが裁判所に提起した申立は手続全体を通じて不変であった(前記15、16、17項参照)。
ドイツは裁判所に、イタリアは第二次世界大戦中のドイツの国際人道法違反による権利侵害についてドイツに対して賠償を請求する民事訴訟をイタリア裁判所において許容することにより、ドイツが国際法上享受する主権免除を尊重しなかったこと、イタリアに所在するドイツの国有財産であるヴィラ・ヴィゴーニに対して強制的な措置をとることにより、やはりドイツの主権免除を侵害したこと、イタリア裁判所における上記の事件と類似の事件についてのギリシャ裁判所判決のイタリア国内での執行を承認することによりドイツの主権免除をさらに侵害したことを認めるよう要請した。
結論的には、ドイツはイタリアが国際的責任を負うことを宣言し、イタリアに対して修復のための様々な措置をとることを命ずるよう裁判所に要請した。

38. イタリアは、ドイツの主張は理由がないので棄却することを裁判所に求め、ヴィラ・ヴィゴーニに対してとられた強制措置については申立から除外し、措置を終了させる命令がだされても異議はないと述べた。答弁書においてイタリアは「ドイツ軍による国際人道法への重大な違反によりイタリア人被害者らに支払うべき賠償金の件に関する」反訴請求を提出した。この請求は裁判所の管轄権に含まれず、その結果裁判所規則第80条第1項により承認できないことを理由として、2010年7月6日の裁判所命令により却下された(前記第5項参照)。
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39. 裁判所に提起された紛争の内容は両当事者により提出された主張により決定される。本件においてはすでに裁判所に提出された反訴は存在せず、イタリアは裁判所に「ドイツの請求は理由がない」との宣告を求めたので、これが裁判所に解決を求めた紛争の内容を決定する主張である。これらの主張について裁判所は事件を受理する管轄権を有するか否かを判断しなければならない。

40. イタリアは裁判所の管轄権と請求の受理許容性についていかなる異議も提起していない。しかしながら確立された判例法によれば、裁判所は「常に管轄権を有することを確信すべきであり、必要であればこの問題を職権で検討すべきである」 (国際民間航空機関(ICAO)理事会上訴事件(インド対パキスタン) 判決)。

41. ドイツの請求は「紛争の平和的解決に関する欧州条約」第1条により裁判所に付託された管轄権に基づいて提起された。その文言は下記の通りである。

「締約国は締約国間に生じた、特に下記に関する全ての国際法紛争を国際司法裁判所の裁判に付託しなければならない。
(a) 条約の解釈;
(b) 国際法に関するあらゆる係争;
(c) 確定すると国際的な義務違反を構成するであろう事実の存在;
(d) 国際的な義務違反に対する補償の範囲」

42. 同条約27条(a) は条約の時間的管轄の範囲について「本条約が紛争当事国間で発効する以前の事実又は状況に関する紛争」には適用されないと規定している。この条約はドイツとイタリアの間で1961年4月18日に発効した。

43. ドイツが裁判所に提出した主張は、請求時から現在まで同条約に加盟している両国間における、まさに上記に引用した第1条に含まれる「国際司法紛争」に関するものである。

44. 上記に引用した第27条が規定する時間的管轄の制限はドイツの請求には適用されない。これらの請求が言及している紛争は、「紛争当事国間で条約が発効する以前」、いいかえると1961年4月18日以前の「事実や状況」に関するものではない。裁判所に提起された紛争を引き起こした「事実や状況」は、ドイツが主張する主権免除を否定し、ドイツが所有する財産に対して強制措置を適用したイタリアの司法判断である。これらの判断と措置が行われたのは2004年から2011年の間であり、従って紛争の平和的解決のための欧州条約が両当事国間で発効したはるか後である。確かに裁判手続で問われている紛争の内容はドイツ軍の1943年から1945年の行為による損害の補償に関係するものである。しかしながら、裁判所におけるドイツの主張はイタリア裁判所の判決における内容の処理についてではない。ドイツの主張は専らその裁判及び執行からの免除が侵害されたことに関するものである。このような観点からみると 紛争は疑いなく両当事者間に条約が発効したはるか後に生じた「事実や状況」に関するものである。それゆえにドイツが裁判所に提訴した紛争の全部または一部が前記第27条の時間管轄の範囲内にあることについてイタリアは正当にも異議を述べなかったのである。よって当裁判所は本件紛争を取り扱う管轄権を有する。

45. 前記の分析について不同意ではなかった両当事者は、一方で、イタリアがその抗弁及びドイツが1943年から1945年にかけて犯した犯罪のイタリア人及びギリシャ人被害者に対する賠償義務が不履行であるとの主張に関連するいくつかの主張という全く異なる文脈において裁判所の管轄権の範囲について争った。イタリアによれば、重大な国際人道法違反による被害者への賠償義務を履行せず、賠償を請求する有効な方法を被害者らに提示していない国家は、被害者らの国籍国の裁判所において主権免除を享受する権利を剝奪されるから、ドイツの被害者らに対する賠償義務の履行とこれらの被害者が提訴した外国の裁判所でドイツが享受しうる主権免除には関連があるという。

46. ドイツはそのような主張は1961年4月18日以前の事実に関する賠償請求問題に関するものであるから裁判所は判断することができないと主張した。ドイツによれば、「イタリアとドイツの間で紛争の平和的解決のための欧州条約が発効した日以前に発生した事実は明らかに裁判所の管轄権外である」そして「賠償請求は本件紛争の内容の範囲内ではなく、本手続の一部を構成しない」。ドイツの主張はドイツによる戦争犯罪及び人道に対する罪(38項参照)のイタリア人被害者に対する賠償義務にドイツが違反したことの確認を求めるイタリアの反訴請求を却下した裁判所の命令に論拠を置いている。ドイツは賠償請求問題は1943年から1945年にかけて行われた行為の直接的な結果であり、前記却下は紛争の平和的解決のための欧州条約第27条の時間管轄制限により裁判所の管轄外であるという事実によるものであると指摘する。

47. イタリアはこの異議に対し、確かに2010年7月6日の命令は本件においてイタリアが反訴請求を追求することを妨げるが、一方で反訴請求の根拠となった主張をドイツの請求に対する抗弁として用いることを妨げるものではない反論した。すなわちイタリアの見解によれば適切な賠償がなされていないという問題は主権免除の問題の解決のためにきわめて重要であり、したがってそれについて付随的に判断する権限を裁判所が有することは明らかである、というのである。

48. イタリアの反訴請求を却下して以来、ドイツの犯罪によるイタリア人被害者に賠償する義務をドイツが負うのか、ドイツは全ての被害者に対してその義務を果たしたのか、それとも一部に対してのみだったのかと言う問題への判断を求めるいかなる申立も裁判所にはもはや提起されていないことを裁判所は留意する。したがって裁判所はこれらの問題について判断することを求められていない。

49. しかしながらイタリアは、ドイツの主権免除を侵害していないという申立の根拠として、ドイツが賠償義務を完全には果たしていないという事実によりドイツは被害者らが提起した民事訴訟においてイタリア裁判所で主権免除を享受する権利を?奪されていると主張する。

50 イタリアが主張するように、国家が負うべきであると申立てられた賠償責任を完全に果たさなかったことが外国の裁判所における主権免除の存否や範囲について法的な効果を及ぼす可能性があるのか、裁判所は判断しなければならない。この問題は本件において主権免除について適用できる慣習国際法を定めるために裁判所が判断すべき法のひとつである。
仮に上記の問題に肯定的に答えるとするならば、第2の問題は、本件の特定の状況のなかで、特にドイツの賠償問題への対処を考慮した場合に、イタリア裁判所がドイツの主権免除を否定する充分な理由があったか、ということになるであろう。第1の問題に回答するまでは、裁判所が第2の問題について回答する管轄権を有することを確認する必要はない。
現段階では管轄権の存否や範囲についてのその他の問題は提起されていないと裁判所は思料する。
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51. 裁判所はまずドイツの最初の申立で提起された問題、すなわち、さまざまなイタリア人原告によって提起された訴訟においてドイツに対して裁判権を行使することにより、イタリア裁判所はドイツに主権免除を与える義務に違反したかという問題を検討する。裁判所は次に第Ⅳ節においてヴィラ・ヴィゴーニに対してとられた強制措置について、さらに第Ⅴ節においてギリシャ判決がイタリアにおいて執行可能であることを宣言したイタリア裁判所の決定について検討する。

III. イタリア人原告らによる手続におけるドイツの主権免除に関して主張された違反

1. 裁判所に係属する争点


52. 裁判所は、イタリアの裁判所における手続はドイツ軍隊及びその他のドイツ機関によって犯された行為に端を発しているとの認識から出発する。ドイツは「特に虐殺に際し、又は元イタリア軍人収容者に関して、イタリアの男女に与えた筆舌に尽くし難い苦痛」を全面的に認め (独伊共同宣言, トリエステ, 2008年11月18日)、それらの行為が不法であることを受け容れ、本裁判所においてもドイツは「この点についての責任を完全に認識」すると述べた。裁判所は問題の行為は「人道の基本的考慮」(コルフ海峡事件(イギリス対アルバニア)本案判決、ニカラグア事件(ニカラグア対アメリカ合衆国)本案判決)に対する完全な無視の表れと評するしかないと考える。事件の第1の類型は、1944年6月29日チビテッラ、コルニア、サン・パンクラーツィオにおいてドイツ軍の「ヘルマン ゲーリング」師団の構成員が、数日前にレジスタンス兵士らが4人のドイツ兵を殺害した後、人質にした203名の民間人を殺害した虐殺の例に示されるような、占領地において報復手段の一つとして行われる民間人の大規模な殺害に関するものである。(マックス・ジョセフ・ミルデ事件 ラ・スペツィア軍事裁判所 2006年10月10日判決 (2007年2月2日登録))。 第2の類型は、ドイツの事実上の奴隷労働者としてイタリアから連行されたルイジ・フェッリーニ氏のような民間人に関するものである。第3の類型は戦争捕虜としての地位と、その地位に伴い享受すべき保護を拒否され、強制労働者に類する扱いを受けたイタリア軍人らに関するものである。裁判所はこの行為が、1943年〜1945年について適用可能な武力紛争に関する国際法に対する重大な違反であることは疑う余地がないと考える。1945年8月8日、ニュールンベルグで調印された国際軍事裁判所憲章第6条(b) は戦争犯罪として「占領地所属もしくは占領地内の民間人の殺害、虐待、もしくは奴隷労働もしくはその他の目的のための追放」とともに「戦争俘虜に対する殺害もしくは虐待」を挙げていた。同憲章第6条(c)は人道に対する罪として「戦前もしくは戦時中にすべての民間人に対して行なわれた殺人、殲滅、奴隷化、追放及びその他の非人道的行為」を列挙していた。イタリアにおける民間人人質殺害は第二次世界大戦直後の裁判で多くの戦争犯罪の被告らが有罪の宣告を受けた公訴事実の一つであった(例えば、フォン・マッケンゼンとメルツァー事件(1946), ケッセルリンク事件(1947)、カプラー事件 (1948))。ニュールンベルグ憲章の原則は1946年12月11日国連総会決議95 (I)により承認された。

53. しかしながら、これらの行為が違法であるか否かについては争いがなく、裁判所は判断を求められていない。裁判所に求められた問題は、それらの行為から生ずる賠償請求に関する手続においてイタリアの裁判所はドイツに主権免除を与えることを義務づけられていたか否かである。それに関連して裁判所は、両当事者間に適用法についてかなりの程度の合意が存在することを留意する。特に、両当事者は免除は単なる礼譲の問題ではなく、国際法により決定されることに同意している。

54. ドイツとイタリアの間においては、すべての免除の享受は条約ではなく慣習国際法のみに由来する。ドイツは1972年5月16日の欧州国家免除条約(以下「欧州条約」という)の8ケ国の参加国中の一国であるが、イタリアは参加国ではなく、したがって条約はイタリアを拘束できない。いずれせよ未発効ではあるが、2004年12月2日に採択された国連主権免除条約(以下「国連条約」という)には両国とも参加していない。2012年1月1日現在、国連条約は28ケ国が署名し13ケ国の批准、受諾、承認、加入書面を得ている。同条約第30条は同条約は30番目の書面が託された日から30日後に発効すると規定する。ドイツもイタリアも同条約に署名していない。

55. したがって裁判所は裁判所規程第38条(1) (b)により、国家に免除を与える「法として認められた一般慣行の証拠としての国際慣習」が存在するか、仮に存在するとすればその免除の範囲と程度を判断すべきである。そのためには、裁判所は慣習国際法規則を確認するために繰り返し宣言された基準を適用すべきである。特に、北海大陸棚事件において、裁判所は慣習国際法が存在するためには「一般慣行」とともに「法的確信」が必要であると明らかにした(北海大陸棚(ドイツ連邦共和国対デンマーク,ドイツ連邦共和国対オランダ)判決)。さらに、裁判所は次のようにも述べた。

「多国間条約が慣習、又は実際には発達中の慣習を記録し、それらに由来する規則を定義することに大きな役割を果たし得るとしても、もとより国際慣習法の実質は第一 に現実の実行と国家の法的確信の中から発見されることは明らかである。」(大陸棚事件(リビア・アラブ・ジャマーヒリーヤ対マルタ)判決).

このような文脈によると、 特に重要な国家実行は、外国に免除を与えるか否かについての国内裁判所判決、免除に関する国内法を制定した国家の法令、国家が外国の裁判所に提起した免除の要求と国家による陳述、 国際法委員会のこの問題に対する広範囲な研究と国連条約に採用された文言の中から見出されるべきである。この文脈において、法的確信は、特に他国における裁判からの免除の権利を国際法により付与されたとして免除を要求する国家の主張、国際法上の義務として課された免除付与を行う国家による承認、そして逆説的には外国に対して裁判権を及ぼすケースにおける国家の主張の中に反映される。確かに国家は時に国際法の要求より広範な免除を与える判断をすることがあるが、現在の目的のためには、そのような件における免除の付与は必須要件である法的確信を伴っていないという点から、裁判所は現在のところこの問題を考慮しない。

56. 主権免除の起源や主権免除の基礎をなす原則について過去に多くの議論があったが、国際法委員会は1980年に、主権免除規則は「現在の国家実行に深く根付いた慣習国際法の一般原則として採用」されてきたと結論づけた(国際法委員会年報1980)。この結論は国家実行に関する広範囲な調査に基づいており、当裁判所の見解によれば、国内立法の記録、司法判断、免除の権利の主張、そして国連主権免除条約作成における諸国家の意見により裏付けられている。それらは、自国のための免除要求か他国への免除付与かを問わず、国家は国際法による免除の権利を有し、それに対応する義務として他国に対して主権免除を尊重し付与しなければならないことを前提に一般的に行動していることを示している。

57. 裁判所は、主権免除規則は国際法と国際関係に重要な位置を占めていると考える。それは国連憲章第2条第1項が宣明し、国際法秩序の基本的な原則のひとつである国家の主権平等の原則に由来する。この原則は、全ての国家はその領域において主権を有するという原則、その主権により領域内の事件や人間に対して管轄権が生ずるということと併せて考察されなければならない。主権免除からの除外は主権平等の原則からの逸脱を意味する。逆に主権免除は領域主権の原則とそこから生ずる管轄権からの逸脱となる可能性がある。

58. 両当事者間には慣習国際法の一部としての主権免除の有効性と重要性について幅広い合意がある。しかしながら、主権免除の範囲と程度を決定するために適用するのは1943年から1945年、すなわちイタリア裁判所の手続の原因となった事件の発生時の法なのか(ドイツの主張)、手続それ自体の開始時の法なのか(イタリアの主張)については当事者間に争いがある。裁判所は国際法委員会による国際違法行為に対する国家責任条約草案第13条に示された原則にしたがい、行為と国際法の適合性は行為の発生時に発効していた法によってのみ決定できると考える。その文脈において、問題となるドイツの行為とイタリアの行為を区別することが重要である。問題となるドイツの行為は、第52項記載のとおり、1943年から1945年になされ、したがってそれに適用されるのは当時の国際法である。問題となるイタリアの行為はイタリア裁判所による主権免除の否定と裁判権の行使であるが、イタリア裁判所で手続が始まる以前には行われていない。裁判所に提起された請求はイタリア裁判所の行為に関するものであるから、裁判所が適用すべきはその手続の時に有効であった国際法である。その上、裁判所は(国際法による外務大臣個人の免除の文脈で)免除の法は本質的に手続的性格であると判示したことがある(2001年4月1日の逮捕状事件(コンゴ民主共和国対ベルギー)判決)。それは特定の行為についての裁判権の行使を規制するものであり、従ってその行為が適法か不法かを判断する実体法とは全く異なるものである。これらの理由により裁判所は、1943年から1945年に存在した法ではなく、イタリアにおける手続当時に存在した主権免除の法を検討し適用すべきであると考える。

59. 両当事者は主権免除規則の範囲と程度に関しても対立している。この文脈において、裁判所は多くの国家(ドイツとイタリアを含む)が主権免除を要求する場合にも他国に与える場合にも、主権免除の制限に関して業務管理行為と主権行為を区別していることに留意する。そのようなアプローチは国連条約と欧州条約でも採用されている(米州機構における汎米法律委員会による1983年の米州主権免除条約草案も参照)。

60. 裁判所は、国際法が業務管理行為について主権免除問題をどのように取り扱っているかという問題の処理を求められていない。イタリア裁判所の手続の主題であったドイツ軍及び他の国家機関による行為は明らかに主権行為である。裁判所はイタリアが裁判官の質問に答えて、それらの行為は不法ではあるが主権行為とみなされると認めたことを留意する。 裁判所は、「主権行為」「業務管理行為」という用語は、当該行為が適法であるという意味を含むものではなく、問題の行為を評価するために参照するのが主権行使を統制する法(主権法)であるか、それとも私的、商業的活動のような国家の非主権活動に関する法(業務管理法)であるかを示すものであると考える。この区別は国家がある行為について他国の裁判所で主権免除を享受できるか否かを決定する限りにおいて重要であり、それは裁判権が実行される前に適用されなければならない。それに反し行為が適法か違法かは裁判権の実行によってのみ判断される事柄である。本件は当該行為の違法性についてドイツが手続の全ての段階において認めているという特異な件であるが、裁判所はこの事実はそれらの行為が主権行為であるという性格を変更するものではないと考える 。

61. 国家は一般に主権行為については免除を享受するということについて、両当事者間に争いはない。それは国連、欧州、そして米州条約草案、この問題について国内法を制定した国家の法令、国内裁判所の法理によって採用されているアプローチである。そのような中で、裁判所は本件手続によって提起された問題、すなわち国家の軍隊(及び軍隊と協力する国家のその他の機関)による武力紛争遂行過程における行為について免除が適用されるのかと言う問題にアプローチしなければならない。ドイツは主権行為について国家が享受する免除には重要な制限がなく、免除が適用されると主張する。イタリアは裁判所に提出した書面において、ドイツはイタリアの裁判所において二つの理由によって免除を享受できないと主張する。第一の理由は主権行為に関する免除は法廷地国内において人間の死傷や財物の毀損を招来した不法行為には及ばないというものであり、第二の理由はどこで問題の行為がなされたかにかかわりなく、それらの行為は他のいかなる救済手段も存在せず、国際法の絶対的な性格に対する最も深刻な違反であるから、ドイツは免除を享受しない、というものである。裁判所は次にイタリアの各主張を検討することにする。

2. イタリアの第一の主張:域内不法行為原則


62. イタリアの第一の主張の核心は、法廷地国内における人の死傷や財産の損害を招来する不法行為については、それが主権行為であっても、もはや国家は免除を享受できないという地点まで慣習国際法は発展したということにある。イタリアは、この主張がイタリアで行われた行為についてイタリア裁判所に提起された請求についてのみ適用され、イタリアの領域外で拘束されてドイツを含むイタリア領域外に強制労働者として連行されたイタリア軍人収容者のケースには適用されないことを認めている。前記の主張の根拠として、イタリアは欧州条約に第11条、国連条約に第12条が採用されたという事実、そして専ら主権免除を扱う国内法を制定した10ケ国中(パキスタンを除く)9ケ国が前記両条約と類似の条項を採用していることを指摘する。イタリアは、欧州条約には同条約は外国軍隊の行為には適用されないとの趣旨の条項(第31条)があることを認めるが、この条項は領域の主権国家の同意のもとに駐留する駐留軍隊の地位を規制する文書と条約の衝突を回避することを主な目的とする留保条項に過ぎず、国家が外国における軍隊の行動に関して免除を享受するという趣旨ではないと主張する。イタリアは、国連条約締結過程における、同条約が軍隊の行動に適用されないことを示唆する陳述(後記69項で論ずる)の重要性を否定する。イタリアは二つの国内法(英国とシンガポール)が外国軍隊に適用されないことも認めるが、外国軍隊による不法行為について裁判権を行使するその他の7ケ国(アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、イスラエル、日本、南アフリカ、米国)に及ぶ重要な国家実行が存在すると主張する。

63. ドイツは、欧州条約第11条及び国連条約第12条は主権行為について主権免除を否定する限りにおいて、慣習国際法を反映していないと主張する。また、上記のどの条項も軍隊に適用することを予定していないから、いずれにせよ本件においては重要ではないとも主張する。ドイツはまた、イタリアの諸事件とギリシャにおけるディストモ事件を除けば、いかなる国の裁判所も武力紛争時における軍隊の行為について国家が主権免除を享受しないと判示したことはなく、反対に数カ国の裁判所においては、同種の事件について被告国家が主権免除を享受するという理由で明確に管轄権を否定したという事実を指摘した。

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64. 裁判所は、主権免除は法廷地国の領域内における人の死傷や財産の損失を招来する行為に関する民事訴訟には及ばないという、交通事故やその他の「保険事故」から始まった見解についてまず検討する。そのような事件について、いくつかの国内裁判所が認定した主権免除制限は業務管理行為に限ったものとして扱われていた(例えばオーストリア最高裁判所 ホルベック対米国政府事件判決参照)。しかしながら裁判所は、主権免除に対する「域内不法行為原則」を規定する国内法の中に主権行為と業務管理行為を明確に区別した例が存在しないことに留意する。カナダ最高裁判所はカナダ国内法による例外規定がそのような区別に従うという見解を明確に否定した(シュライバー対ドイツ連邦共和国及びカナダ司法長官事件(2002))。欧州条約第11条や国連条約12条においてもそのような区別は採用されていない。後に国連条約12条となった草案に対する国際法委員会の注釈は、これは意図的な選択であり、当該条項の適用は業務管理行為に限定されるものではないと述べている(国際法委員会年報1991)。しかしながら、それが主権行為に適用しようとするものである限り、第12条は慣習国際法を代表するものではないと示唆したのはドイツだけではない。後に第12条となった国際法委員会の草案に対する批判のなかで、1990年に中国は「この条文は主権行為と私法行為の区別を設けない点で制限免除主義の先を行っている」と批評した。また米国は2004年に国連条約草案に対する論評において、主権行為と業務管理行為の区別に配慮しない管轄権の拡張は「現在の国際法の原則と相容れないであろう」から、第12条は「主権行為と業務管理行為という伝統的な区別に矛盾なく解釈・適用されなければならない」と述べた。

65. 裁判所は本件において主権行為に適用可能な主権免除の「域内不法行為原則」が慣習国際法に存在するかという問題を一般的に解決することは求められていないと考える。 裁判所に提起された争点は、法廷地国の領域において、外国軍隊またはそれと協働する他の国家機関によって、武力紛争遂行の過程でなされた行為に限られている。

66. 裁判所はまず、欧州条約第11条や国連条約第12条の採択が前項に記載した類型の行為について国家はもはや主権免除を享受しないというイタリアの主張に何らかの根拠を与えるものであるかを検討する。すでに裁判所が説明したように(前記第54項)、いずれの条約も本件の当事者間で効力を有しない。したがってこれらの条約の条項は、これらの条項とその採択と実施の過程から慣習国際法の内容を解明するという限りにおいてのみ本件と関連する。

67. 欧州条約第11条は域内不法行為原則を幅広い文言で宣言する。

「締約国は人に対する侵害又は有体財産に対する損害の救済手続において、傷害又は損害をもたらした事実が法廷地国の領域で発生し、かつ、傷害又は損害の加害者がこれらの事実が発生した時に当該領域内に存在した場合には、他の締約国の裁判所の管轄権からの免除を主張することができない。」

しかしながら、この条項は下記の第31条に照らして読まなければならない。

「この条約のいかなる条項も、締約国の軍隊が他の締約国の領域内にある場合において、軍隊又はそれに関連する何らかの作為不作為に関して締約国が享受する免除又は特権に対して影響を与えない。」

第31条の射程のひとつがこの条約と駐留軍隊の地位に関する各種の協定との関係であるとしても、第31条の文言はそれに限定されず、それらの軍隊が締約国との合意により駐留しているのか、その行為が平時に行われたか、武力紛争時に行われたかにかかわらず、外国軍隊の行為に関するあらゆる訴訟を条約の射程から除外している。協議手続のために作成された詳細な注釈を含む説明報告書は第31条について下記のように述べている。

「条約は武力紛争時に発生する事態を統制しようとするものでもなく、同盟国間の駐留軍の問題の解決のために援用され得るものでもない。通常それらの問題は特別協定により扱われる。」(第33条参照).

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .

[第31条] 条約がこれらの問題に影響を与えると解釈されてはならない。(第116項)

68. 裁判所は同条約第31条は「留保条項」としての効力を有し、その結果軍隊の行為に対する主権免除は完全に条約の適用外にあり、慣習国際法によって判断されなければならないことについてイタリアに同意する。しかしながら結論的には、同条約に第11条の「域内不法行為原則」が含まれることは、国家は軍隊による不法行為について免除を享受できないという主張の根拠とはなり得ない。説明報告書が述べる通り、同条約第31条の効果は条約はこの問題に何の影響も与えないということである。下記の各国の裁判例は、第31条の趣旨は軍隊の不法行為についての主権免除は第11条の影響を受けないということであると結論づけた。
ベルギー(2000.2.18ヘント第一審裁判所 ボッテルベルゲ対ドイツ国事件判決)、アイルランド (1995.12.15 最高裁判所 マッケルヒニー対ウィリアムズ事件判決)、スロベニア (憲法裁判所caseNo. Up-13/99)、ギリシャ (マリゲロス対ドイツ連邦共和国事件)、 ポーランド(ポーランド最高裁判所 ナトニエヴスキー対ドイツ連邦共和国事件)。

69. 国連条約第12条は下記の通り規定する。

「いずれの国も、人の死亡若しくは身体の傷害又は有体財産の損傷若しくは滅失が自国の責めに帰するとされる作為又は不作為によって生じた場合において、当該作為又は不作為の全部又は一部が他の国の領域内で行われ、かつ、当該作為又は不作為を行った者が当該作為又は不作為を行った時点において当該他の国の領域内に所在していたときは、当該人の死亡若しくは身体の傷害又は有体財産の損傷若しくは滅失に対する金銭によるてん補に関する裁判手続において、それについて管轄権を有する当該他の国の裁判所の裁判権からの免除を援用することができない。ただし、関係国間で別段の合意をする場合は、この限りでない。」

欧州条約とは異なり、国連条約にはその射程から軍隊の行為を除外する条項は存在しない。
しかし、国際法委員会の第12条への注釈はこの条項は「軍事紛争に関わる状況」には適用されないと述べる (国際法委員会年報1991)。その上、国連総会第6委員会の主権免除条約特別委員会報告において特別委員会議長は「条約草案は軍事活動をカバーしないという一般的理解に基づいて準備されてきた」と声明した。
いかなる国もこの解釈に疑問を提出しなかった。その上、現在までに条約を批准した国家のうちの2ケ国であるノルウェーとスウェーデンが「条約が国際人道法に言うところの武力紛争や、国の軍隊が公務として遂行する活動を含む、軍事活動には適用されない」という理解を同趣旨の文言で宣言したことを裁判所は留意する。これら各種の証拠に照らし、裁判所は、条約第12条の存在は武力紛争の状況下に法廷地国の領域において他国の軍隊や協働機関により人の死亡若しくは身体の傷害又は有体財産の損傷をひきおこした行為に関する賠償手続については慣習国際法は主権免除を拒否しているという主張のいかなる根拠にもなり得ないと結論する。

70. 国内法の形式による国家実行について検討すると、専ら主権免除を主題とする法律を制定した国として両当事者が言及した10ケ国中9ケ国が法廷地国における死亡、傷害又は財産損害に関する賠償について国家は免除を享受できないという効果をもつ条項を採用していることを裁判所は留意する。(1976米国外国主権免除法、1978英国国家免除法、1981南アフリカ外国免除法、1985カナダ国家免除法、1985オーストラリア外国免除法、1985シンガポール国家免除法、1995アルゼンチン裁判所における外国の免除に関する法律、2008イスラエル外国免除法、2009日本対外国民事裁判権法)。パキスタン国家免除法(1981)のみが類似の条項を含まない。

71. これらのうちの2つの法令(英国国家免除法、シンガポール国家免除法)は外国軍隊の行為に関する訴訟を適用から除外している。これに対応するカナダ、・オーストラリア、イスラエルの条項では駐留国の同意を得て駐留している軍隊による行為、または駐留軍に関する法令によって定められた事柄についてのみ除外している。南アフリカ、アルゼンチン、日本の法令には除外条項が存在しない。但し日本の法令(第3条)は「この法律の規定は、条約又は確立された国際法規に基づき外国等が享有する特権又は免除に影響を及ぼすものではない」と規定する。
1976年の米国外国主権免除法には特に外国軍隊の行為に関する請求についての特別の条項はないが、「外国に対する、米国内で発生したその外国の不法な作為・不作為による人の死傷又は財産的損害についての金銭賠償」請求については免除を認めないという条項(1605??)は「裁量権が濫用されたか否かを問わず、裁量権の行使又は不行使に基づくすべての請求」(1605??(A))には適用されない。他国の立法例がないこの条項の解釈として、米国の裁判所は米国内での暗殺に関与した外国のエージェントは免除を享受できないと判示した(米国コロンビア地方裁判所、1980レテリエル対チリ共和国事件判決)。しかし、当裁判所は米国の裁判所がこの条項を武力紛争の過程における外国の軍隊や協働する機関による行為に適用することを求められた例を知らない。
実際、国内法に軍隊の行動についての一般的除外を規定していない7ケ国のうち、この法律を武力紛争の過程における外国軍隊や協働機関の行為に適用することを裁判所が求められた国は存在しない。

72. 裁判所は次に軍隊の行為に関係する主権免除についての国内裁判所判決の形式の国家実行を検討する。外国の領域にその同意を得て駐留又は訪問している軍隊が不法行為に関与したとして訴えられた手続において国家が免除を享受するか否かについては、多くの事件について国内裁判所で検討されてきた。1934年1月のエジプト裁判所決定 (Bassionni Amrane対John事件)、1957年のベルギーブリュッセル控訴裁判所判決 (S.A. Eau, gaz, électricité et applications対.Office d’aide mutuelle)、そして1957年のドイツシュレースヴィヒ控訴裁判所判決(英国免除事件)は国内裁判所が外国軍隊の行為は主権行為であるとして免除を与えた初期の例である。その後、数カ国の裁判所が軍艦による損害について国家は免除されると判示した(2001オランダ最高裁判所 米国対 エームスハーヴェン港湾局事件、1999.9.3フランスエクサンプロヴァンス控訴裁判所第2裁判部 アリアンツ保険対米国事件判決、2000イタリア破毀院(軍事演習による損害)トレント対米国事件判決)。英国の裁判所は外国軍隊の英国領域内での行為による不法行為訴訟において、当該行為が主権行為である場合には慣習国際法は免除を求めていると判示した(1995控訴院リトレル対米国 (No. 2)事件、2000貴族院 オランダ対 ランペンウォルフ事件)。アイルランド最高裁判所は、法廷地国の領域にいる外国軍隊の構成員による主権行為については法廷地国の許可がない場合にも国際法は外国政府に免除を与えることを求めていると判示した(1995マッケルヒニー対ウィリアムズ事件)。その後、欧州人権裁判所大法廷はこの判断は国際法の広く支持された見解を反映したものであるから、免除の享受は欧州人権条約と矛盾するとみなされるべきではないと判示した (2001.11.21マッケルヒニー対アイルランド事件判決)。本件で提起された特有の争点に直接かかわるものではないが、他のいかなる国の裁判所でも否定されたことがないと見られるこれらの司法判断は国家は外国の領域で軍隊が行った主権行為については免除を享受することを示唆している。

73. しかしながら、本件の目的のために最も適切な国家実行は、武力紛争時に軍隊よって行われたと主張されている行為に関する手続において国家が免除を享受するかという問題についての国内裁判所の判断の中に見出すことができると裁判所は考える。それらの全ての事件の事実関係はイタリア裁判所に提起された事件と非常に類似点の多い、第二次世界大戦中の事件に関するものである。この文脈において、フランス破毀院は第二次世界大戦中に占領下のフランスから連行された原告によって提起された事件についてドイツに一貫して免除を与えてきた(2003.12.16ブシュロン事件、2004.6.2 X事件、2006.1.3 グロス事件)。裁判所はまた、フランス破毀院は2006年の判決にいたる手続において国際法に基づいて免除を与えたのであるから、フランスが欧州人権条約に違反したとは言えないと欧州人権裁判所が判示したことを留意する(2006.6.16 グロス対フランス事件決定)。

74. スロベニアとポーランドの最上級の裁判所も第二次世界大戦中に国内でなされたドイツ軍の違法行為についてドイツに免除を認めた。2001年、スロベニア憲法裁判所はドイツによる占領時にドイツに連行された原告がスロベニア最高裁裁判所が恣意的にドイツの免除を認めたと主張する訴訟において、ドイツは免除を享受すると判示した(2001年3月8日判決)。ポーランド最高裁判所は2010年10月29日ナトニエヴスキー対ドイツ連邦共和国事件判決において、1944年にドイツ軍が占領下のポーランドの村を焼き、数百人の住民を虐殺した際に負傷した原告による訴訟について、ドイツは免除を享受すると判示した。同裁判所は、フェッリーニ事件、ディストモ事件、マルゲロス事件の判断、欧州条約と国連条約の条項、その他の文書を広範に検討した上で、武力紛争の過程における軍隊の行為に起因すると主張される損害賠償については国家は今なお免除を享受すると結論づけたのである。ベルギー(2000.2.18ヘント第一審裁判所 ボッテルベルゲ対ドイツ事件判決)、セルビア (2001.11.1レスコヴァツ一審裁判所判決)、ブラジル (2008.7.9リオデジャネイロ連邦裁判所 バレット対ドイツ連邦共和国事件判決;ブラジル領海内でのドイツ潜水艦によるブラジル漁船撃沈に関する訴訟についてドイツの免除を認定)の下級審もそれらの国の領域又は領海における戦争行為についてドイツは免除されると判断した。

75. 最後に、ドイツの裁判所も軍隊の行為についてはその行為が法廷地国で行われた場合にも域内不法行為原則は国際法による国家の免除享受を妨げないと結論づけたことを裁判所は留意する。(2003.6.26連邦最高裁判所 ギリシャ市民対ドイツ連邦共和国事件判決;ドイツの免除享受を侵害しているとしてディストモ事件ギリシャ判決のドイツでの執行を否定)。

76. 本件の主題であるイタリアの諸判決を除けばイタリアの主張を支える司法実行が存在する唯一の国はギリシャである。ギリシャ最高裁判所のディストモ事件2000年判決は、それが武力紛争時の軍隊の行為には適用されないことに全く言及せずに域内不法行為原則について広範囲な議論を行っている。しかしながら ギリシャ最高特別裁判所はマリゲロス対ドイツ連邦共和国事件判決においてディストモ事件における最高裁判所の論理を否定し、ドイツは免除を享受すると判断した。特に、最高特別裁判所は域内不法行為原則は武力紛争遂行における国家の軍隊の行為には適用されないと判断した。この判決はディストモ事件の結論を変更するものではない。しかし今後外国軍隊のギリシャにおける行為が原因であると主張された賠償手続における免除の可否という同じ争点を扱うギリシャの裁判所その他の機関は、マルゲロス判決以降に慣習国際法が変化したと考えない限り、最高特別裁判所マルゲロス事件判例に拘束されることになるとギリシャは当裁判所に説明した。マルゲロス判決以降、第二次大戦中のドイツ軍の行為による損害であると主張してドイツに賠償請求した手続において免除を拒否したギリシャの裁判所は存在せず、最高裁判所も2009年決定において傍論ではあるがマルゲロス事件の論理を承認したとドイツは指摘した。マルゲロス判決と2009年の事件の傍論、更にディストモ判決の執行をギリシャ自身の国内で許可しなかったギリシャ政府の決定、欧州人権裁判所のカロゲロプールー他対ギリシャ・ドイツ事件(2002年12月12日決定)において前記決定を擁護したことを考慮すると、ギリシャの国家実行は全体としてイタリアの主張を裏付けるものではなく、むしろ否定するものであると裁判所は結論する。

77.当裁判所の意見によれば、主権行為についての主権免除は、当該行為が法廷地国で行われたとしても、武力紛争の遂行における軍隊その他の国家機関による人の死傷や財産の損害をもたらす行為についての民事訴訟に引き続き適用されるという主張を司法判断の形式における国家実行は支持している。慣習国際法が免除を要求していると考えていることを明らかにしている諸国家の主張や、多くの国内裁判所の判断に示されるように、その実行には法的確信が伴っている。反対の司法判断がほとんど存在しないこと、現在までに裁判所が知り得る範囲では、国際法委員会の主権免除に関する作業や国連条約の採択の過程で慣習国際法はそのようなケースについて免除を要求していないという意見が各国から出されていないことも重要である。

78. 前記に照らし、裁判所は、慣習国際法は武力紛争の遂行過程において、国の軍隊その他の国家機関が損害をもたらす行為を他国の領域で行ったとして訴えられている国に対して免除を認めることを現在も要求していると考える。この結論は裁判所が言及した欧州人権裁判所判決によって認められた(72, 73,76項参照)。

79. 従って、当裁判所は、本件におけるイタリアの主張に反し、ドイツに対する免除を拒否したイタリア裁判所の決定は域内不法行為原則によって正当化することはできないと結論づける。

3. イタリアの第2の主張: イタリア裁判所における主張の内容と
請求が行われた状況


80. その第1の主張とは異なり、イタリア裁判所に提訴されたすべての請求に適用されるイタリアの第2の主張は、免除の拒否はイタリア裁判所に提起された請求の内容とその請求がなされた状況の特別な性格により正当化されるというものである。この請求には3つの要素がある。第一に、イタリアは、これらの請求の原因となった行為は武力紛争の遂行に適用される国際法の原理に対する深刻な違反であり、戦争犯罪と人道に反する罪を構成すると主張する。第二に、イタリアは、侵害された国際法規則は強行規範であると主張する。第三に、イタリアは、原告らは他のあらゆる形式の補償手段を拒否され、イタリアの裁判所による管轄権の行使は最後の手段として必要であると主張する。イタリアが口頭手続において、イタリア裁判所はこれらの3つの要素の効果を合わせて主権免除を拒否したと主張したことは認識するが、裁判所は次にこれらの各要素について検討することにする。

A. 違反の重大性

81. 第一の要素は、国家が武力紛争法(今日では国際人道法という用語が通常用いられるが、1943年から1945年にはその用語は使用されなかった)に対する重大な違反をした場合、国際法はその国家に主権免除を与えない、又は少なくともその免除の権利を制限するという命題に依拠している。本件において裁判所は、イタリア裁判所の手続で提起されたドイツの軍隊その他のドイツ機関の行為は武力紛争法に対する重大な違反であり、国際法上の犯罪となるものであることをすでに明らかにした(前記52項参照)。問題はその事実がドイツの主権免除の享受を?奪する効力を有するかにある。

82. しかしながら、裁判所はまず最初に免除の有効性がある程度違法行為の重大性にかかっているという主張には論理的問題があることを検討しなければならない。裁判権からの免除は、単に不利な判決を受けることからの免除にとどまらず訴訟手続に従うことからの免除でもある。したがって、それは必然的に予備的性格をもつ。その結果、国内裁判所は提起された本案について聴取する前、事実を確定する前に外国が国際法により免除を享受するか否かの判断を求められる。仮に免除の可否がその国家が実際に重大な国際人権法又は武力紛争法に違反したことに影響を受けるとすれば、国内裁判所は管轄権の有無を判断するために、本案について取調をしなければならないことになる。一方である国家から免除を剝奪するためには、その国家がそのような不法な行為をしたという単なる主張だけで充分であるとすれば、免除は事実上、請求の技巧的構成によって容易に否定されることになる。

83. とはいえ、裁判所はそれにもかかわらず、人道法又は武力紛争法に対する重大な違反の場合には国家は免除を享受できないという地点まで慣習国際法が発展したのかについて検討しなければならない。本件の主題となっているイタリア裁判所の判断を除けばそのような場合に国家は免除の享受を剝奪されるという主張を裏付けると考えられる国家実行はほとんど存在しない。ギリシャ最高裁判所がディストモ事件においてそのような論法を採用したが、最高特別裁判所は2年後にマルゲロス事件においてそれを否認した。当裁判所が前記第76項で指摘したように、ギリシャ法において後続ケースの裁判所は2002年以降に慣習国際法が変化したと判断しない限りマルゲロス事件の判例に拘束され、その後慣習国際法が変化したと判断した裁判所は存在しない。当裁判所は域内不法行為原則と同様に、ギリシャの実行は全体的に見るとイタリアによって提出された見解が慣習国際法の一部となったことを否定する主張を裏付けるものであると考える。

84. その上、慣習国際法は国家の主権免除享受が訴えられた行為の重大性や違反したとされる規則の絶対的性格に依拠するものとしては扱っていないことを示す他の国の多数の国家実行がある。

85. その実行は国内裁判所の判決に特に顕著である。国際人権法に対する重大な違反又は人道に対する犯罪又は戦争犯罪として訴えられた場合には、国際法はもはや主権免除を求めていないとの趣旨の主張はカナダ(2004オンタリオ控訴裁判所 ボウザリ対イランイスラム共和国事件;拷問に対する訴え)、フランス(ブシュロン事件に関する2002.9.9パリ控訴院及び2003.12.16破毀院判決、2004.6.2破毀院判決 (X事件)、2006.1.3破毀院判決(グロス事件) ;人道に反する罪に対する訴え), スロベニア(スロベニア憲法裁判所; 戦争犯罪と人道に反する罪に対する訴え)、ニュージーランド (2007 最高裁判所 ファン対ジャン事件判決; 拷問に対する訴え)、ポーランド(2010 ナトニエヴスキー事件最高裁判所判決; 戦争犯罪と人道に反する罪に対する訴え)、英国 (2007 貴族院 ジョーンズ対サウジアラビア事件判決)の各裁判所において否定された。

86. 裁判所は裁判官からの質問に対する回答において、イタリア自身がイタリアの事件のこの側面についての不確実性について述べたことを留意する。イタリアは次のように述べた。

「イタリアは戦争犯罪と人道に対する罪は主権行為とみなすことができず、国家がその防御のために援用することができないという見解を認識している…イタリアはこの分野で主権免除の法は変化の過程にあることを認識しているが、現段階ではこの過程が新しい一般的な免除例外、すなわち国際犯罪から発生した賠償についての全ての訴えについて免除を否定する規則に結実するか否かははっきりしていないことも認識している。」

類似の不確実性はマンテッリ対マイエッタ事件におけるイタリア破毀院の命令においても顕著である(2008年5月29日命令)。

87. 裁判所は、フェッリーニ事件イタリア破毀院判決において根拠として挙げられているにも関わらず、2000年のピノチェト事件(3)英国判決は本件と関連性がないと考える。ピノチェト事件は元国家元首の他国における刑事訴訟からの免除に関するものであり、損害に対する責任を決定するための手続における国家自体の免除に関するものではない。前者の類型の政府高官の免除と後者の国家の免除の場合との区別についてはピノチェト事件で数人の裁判官が強調している (ハットン卿pp.254,264、ミレット卿pp. 278、フィリップス卿pp. 280-281)。貴族院は後に2007年のジョーンズ対サウジアラビア事件においてこの区別を更に明確に説明し、ビンガム卿は刑事訴訟と民事訴訟の区別をピノチェト事件における「判断の根本」であると述べた(para.32)。その上ピノチェト事件判決の論理は1984国連拷問禁止条約の特定の文言に依拠しており、その条約は本件とは関係がない。

88. 国内法に関連して、イタリアは米国外国主権免除法(1996年制定)の改正に言及した。
その改正は特定の行為(例えば拷問、超法規的殺害)が米国政府により「テロ支援国家に指定」された国家によって行われたとして訴えられた場合、免除を与えないことにするというものである。裁判所はこの改正が他国の立法に例を見ないものであることに留意する。
主権免除に関する国内法を制定した国の中で、訴えられた行為の重大性によって免除を制限するという条項を持つ国は皆無である。

89. さらに留意すべきことは、欧州条約、国連条約、そして米州条約草案では、違反の重大性や侵害された規則の絶対的な性格を根拠とする主権免除制限は規定されていないということである。国連条約にこのような条項が存在しないことはとりわけ重要である。なぜなら、条約案文の検討中にそのような条項が必要か否かという問題が提起されたからである。1999年、国際法委員会は国連総会第6委員会で指摘された主権免除についてのいくつかの問題に関する国家実行の発展について検討するためのワーキンググループを立ち上げた。
ワーキンググループはその報告書付録において、追加的事項として「国家による、強行規範の性格を持つ人権規範違反を原因とする人の死傷の場合」に関する請求についての国家実行の発展に言及し、この問題は無視すべきではないが国際法委員会の条文案を訂正することは奨励しないと述べた(国際法委員会年報1999)。その後この問題は国連総会第6委員会が創設したワーキンググループによって検討され、1999年にこの問題は「ワーキングループが成文化作業を行うに足りるほど熟していない」ので取り上げないことにすると決定したと報告し、もし何らかの措置が必要であれば、いかなる行動方針をとるかについて決定するのは第6委員会であると述べた。それに続く第6委員会の議論の中で強行規範違反による免除制限を条約に取り入れるべきであると提案した国はなかった。この歴史は国連条約が2004年に採択された際に諸国は慣習国際法が今イタリアが主張しているような形で主権免除を制限しているとは考えていなかったことを示していると裁判所は考える。

90. 国際人道法又は人権法に対する重大な侵害に関する場合には、国家はもはや免除を享受できないという主張を欧州人権裁判所は受け容れなかった。2001年、同裁判所の大法廷は9対8の僅差で次のとおり結論づけた。

「国際法における拷問禁止の特別な性格にも関わらず、裁判所は提出された国際文書、裁判例又はその他の資料の中から、国際法の問題として、国家は拷問行為について申立てがあった外国の民事訴訟において、もはや免除を享受できないと結論づける確固とした根拠を見出すことができなかった。」 (アル・アドサニ対英国事件)

翌年、カロゲロプールー他対ギリシャ・ドイツ事件において、欧州人権裁判所はディストモ判決による執行についてギリシャ政府が許可を拒否したことに関する請求を棄却し、次のように述べた

「裁判所は、国家は外国において提起された人道に反する罪についての賠償を求める民事請求に関して免除を享受できないという命題の国際法における受容が確立されたとは認めない。」(2002年12月12日判決)

91. 当裁判所は、現存する慣習国際法の下では、国家は国際人権法又は武力紛争法に対する重大な違反があったとして訴えられたという理由によって免除を?奪されることはないと結論する。そのように結論するにあたり、当裁判所は、これは外国の裁判所における裁判権からの国家それ自体の免除に関するものにすぎず、免除が国家の高官に対する刑事訴訟において適用されるか、適用されるとすればいかなる範囲においてかという問題は本件の争点ではないことを強調しなければならない。

B. 強行規範と主権免除規則の関係

92. 裁判所は次に、ドイツが1943年から1945年にかけて違反した強行規範規則を強調するイタリアの主張の第2の要素を検討する。この主張は、武力紛争法の一部をなす強行規範規則とドイツへの主権免除付与は抵触するということを前提とする。これによれば、強行規範は条約上の国際法規則であれ、慣習国際法上の国際法規則であれ、常に強行規範に矛盾する国際法規則に優先する。そしてある国が他国の裁判所における免除を与える規則は強行規範ではないから、免除規則は強行規範に道を譲らねばならないというのである。

93. 従ってこの主張は、国家が他の国家に対して免除を与える事を求める慣習法と強行規範との間の抵触の存在を前提としている。しかしながら、裁判所の見解ではそのような抵触は存在しない。占領地における民間人虐殺、奴隷労働のための民間人の連行、奴隷労働のための戦争捕虜の連行を禁止する武力紛争法が強行規範であると仮定すると、これらの規則と主権免除には抵触は存在しない。両者の規則は別の事柄に関するものである。主権免除規則は手続的性格であり、その効力はある国家の裁判所が他の国家に関して裁判権を実行してよいかを決定することに限定される。この規則は手続の原因となった行為が適法か違法かという問題には関係がない。これが(裁判所が前記58項で説明したとおり)、現在の主権免除法が1943年から1945年に起きた事件に関する手続に適用されても、問題の適法性と責任の判断について法は遡及適用されないという原則に反しない理由である。同じ理由で、慣習国際法により外国に免除を認めることは、強行規範違反により創出された状況を適法と認めたり、その状況の維持に支援や援助をすることを意味するものではなく、したがって国際法委員会の国家責任条約草案第41条の原則に矛盾しない。

94. 本件において、虐殺、連行、奴隷労働禁止規則に対する違反は1943年から1945年にかけて起こった。これらの行為の違法性はすべての関係者により公然と認められている。これらの違反を原因とする請求についてイタリアの裁判所が裁判権を有するか否かを決定するための主権免除規則の適用は、侵害された規則とはいかなる抵触も生じえない。また、元の不法行為より、不法行為を行った国の賠償義務に焦点をあてることにより増強される主張でもない。賠償義務はそれを実現させる規則とは独立して存在する規則である。主権免除は後者にのみ関連する。外国に免除を与えるという決定は、それが元の不法行為を禁止する規則に抵触しないのと同様に損害賠償義務とも抵触しない。その上、ほとんどの平和条約や戦後清算は賠償の支払いを求めないという解決か一時金の支払い又は相殺の利用を採用してきたという一世紀にわたる実行の背景に反し、全ての1人1人の個人の被害者に完全な代償の支払いを求める規則が諸国家の国際社会において、ひとつとして逸脱を許さない規則として受け容れられ、国際法に含まれていると見るのは難しい。

95. 裁判所は、強行規範以外のあらゆる規則は適用すれば強行規範の執行を妨げる可能性のある限りにおいて、直接の抵触がない場合にも適用されないという主張には理由がないと考える。強行規範は逸脱を許さない規則である。しかし、裁判権の射程及び範囲並びにいつ行使されうるかを決定する規則は強行規範を含む実体規範からの逸脱ではなく、それらの規則の修正を求めたり適用を排除する効力が強行規範概念に内在しているものでもない。裁判所は、その採用が、施行されうる強行規範を利用できなくなる結果となるにも関わらず、このアプローチを2つの事件で採用した。軍事活動事件において、裁判所は強行規範の性格をもつ規則が裁判所に本来有しない管轄権をあたえることはないと判断した (コンゴ領における軍事活動事件(コンゴ民主共和国対ルワンダ)判決)。逮捕状事件において裁判所は、表現としては強行規範の概念には言及しなかったものの、外交部長官が疑いもなく強行規範の性格を有する規則に違反する罪に問われたということはコンゴ民主共和国が彼に代わって免除を要求する慣習国際法の特権を剝奪するものではないと判断した。(2000年4月11日の逮捕状事件 (コンゴ民主共和国対ベルギー)判決)。裁判所は他国における手続からの主権免除に関する慣習国際法の適用についても同様の論理が該当すると考える。

96. その上、強行規範の効果が主権免除の法を排除するという主張は下記の国内裁判所で否認されてきた。英国(貴族院 ジョーンズ対サウジアラビア事件判決)、カナダ(オンタリオ控訴裁判所 ボウザリ対イランイスラム共和国事件判決)、ポーランド (最高裁判所 ナトニエヴスキー事件判決)、スロベニア(スロベニア憲法裁判所 No. Up-13/99,)、ニュージーランド(最高裁判所 ファン対ジャン事件判決)、ギリシャ (最高特別裁判所 マルゲロス事件判決)。また、欧州人権裁判所もアル・アドサニ対英国事件とカロゲロプール他対ギリシャ及びドイツ事件(前記90項で論じた)において詳細な検討の末に同様の判断をした。なお、裁判所は、フランス破毀院の2011年3月9日リユニオン航空対リビア・アラブ ジャマーヒリーヤ国事件判決が上記と異なる結論を裏付けるものとは考えない。破毀院はこの判決で、仮に強行規範が主権免除に対する適法な制限を構成するとしても、そのような制限はこの事件の事実においては正当化されないと述べたに過ぎない。したがって本件の主題であるイタリア裁判所の判決は、この部分のイタリアの第2の主張のこの部分が依拠する理論を受け容れた唯一の国内裁判所判断ということになる。その上前記70項〜71項で検討した主権免除に関する国内法の中に強行規範違反として訴えられた場合に免除を制限するものは存在しない。

97. よって、裁判所は仮にイタリア裁判所の手続に強行法規違反が関係したとしても、主権免除に関する慣習国際法の適用はそれに影響を受けないと結論する。

C. 「最後の手段」の主張

98. イタリアの主張の第三の要素は、さまざまなグループの被害者らが賠償を確保するためにイタリアの手続の中で行った他の試みがすべて不成功に終わったから、ドイツが享受してきた免除を拒否したイタリアの裁判所の判断は正当化されるというものである。これに対しドイツは、第二次世界大戦直後、ドイツは複雑な一連の国際協定による賠償のために莫大な経済その他の犠牲を払ったが、当時の経済的現実を反映してどの連合国もその国民が負った損害に対する完全な賠償を受領できなかったと反論する。また、ドイツは1961年の2つの合意よるイタリアに対する支払、より最近では2000年連邦法によりドイツに強制労働力として違法に連行されたさまざまなイタリア人に対する支払が行われたことを指摘する。イタリアは、しかしながら多数のイタリア人被害者が、それにも関わらず全く賠償を受けずに残されていると主張する。

*


99. 裁判所はドイツが戦争犯罪と人道に反する罪のイタリア人被害者らに対する補償措置を確立するための重要な対策を積み重ねてきたことに留意する。しかしながら、ドイツは戦争捕虜は強制労働者としての補償の対象ではないことを理由にその国家補償計画から大部分のイタリア軍人収容者の請求を除外することを決定した(前記26項参照)。圧倒的多数のイタリア軍人収容者は実際にはナチス当局から戦争捕虜としての待遇を拒否された。そのような歴史にもかかわらず、2001年にドイツ政府は、それらの収容者は法的に戦争捕虜の地位を有していたから補償を受ける資格がないと決定した。裁判所は、ドイツが当時戦争捕虜の地位の承認を拒否し、戦争捕虜として保証される法的保護を否定したにも関わらず、被害者らがその地位を有していたことを理由に補償を否定するとは驚くべきことであり、遺憾であると考える。

100. その上、政府高官の刑事手続からの免除という異なる文脈においてではあるが、裁判所がすでに判示した通り、免除が特定の事件について裁判権の行使を妨げるという事実は、実体国際法の適用可能性に影響を与えるものではない (2001年4月11日の逮捕状事件(コンゴ民主共和国対ベルギー)判決、 刑事司法共助に関する特定問題事件(Djibouti対フランス)判決も参照)。この文脈において、裁判所は国家が他国の裁判所において免除を享受することはその国家が国際的責任や賠償義務を負うか否かという問題とは全く別個の問題であることを指摘する。

101. それにもかかわらず裁判所は、ドイツのイタリア被害者に対する補償対策の欠陥が、ドイツから裁判権免除を奪う権限をイタリア裁判所に与えるというイタリアの主張を受け容れることができない。裁判所は、主権免除の享受は補償を確保するための有効な代替手段の存在にかかっているという慣習国際法を導くことができる国家実行を見出すことができない。この問題に関する国内法の中にも、免除の抗弁に対する国内裁判所の判断の中にも、免除の享受がそのような前提条件にかかっているといういかなる証拠もない。欧州条約にも国連条約にもそのような条件は含まれていない。

102. その上、そのような条件が存在すると仮定すると、とりわけ本件のように請求が広範囲な政府間交渉の主題となってきた場合には、その適用はきわめて実行困難であることを裁判所は看過することができない。仮にイタリアの主張に従うと、そのような交渉が進行中であり、妥結が期待されるときには免除が適用されるが、国際合意の期待が失われたと考えられる時点で免除が停止されることになるであろう。しかし関係国中の一国の国内裁判所は、いつその時点が到来したかを判断するのに適しているとは言えそうもない。その上、イタリアも認めるように戦争直後には普通におこなわれた一括支払いによる解決が行われた場合、特定の原告が現在も賠償を受ける資格を有しているか否かは解決の詳細と資金の受領国(この場合には法廷地国)がそれをいかに配分したかについての裁判所による調査にかかることになる。戦争直後に補償合意として資金を受領した国家がその資金を国民である被害者個人に分配せず国家経済や社会基盤の再建のために使用することを選択した場合、個人が金銭の分配を受けられなかったという事実がどうして資金を彼らの国籍国に支払った国家に対する請求の根拠になるのか理解困難である。

103. したがって裁判所はドイツはこの理由により免除を拒否され得るというイタリアの主張を認めない。

104. この結論に至る過程において、裁判所は国際法によるドイツの裁判権からの免除が、関係するイタリア国民に対する法的補償を不可能にする可能性があることを認識しなかった訳ではない。しかしながら、イタリアにおける手続の根拠となった、第99項で述べたイタリア軍人収容者とその他の未補償を訴えるイタリア国民の請求は、この問題の解決の見地から行われる今後の2国間交渉の主題となるであろう。

D. イタリアが主張する「事情の複合的効果」

105. 口頭手続の中でイタリアの代理人は、イタリア裁判所のドイツに対する免除拒否が正当化されるのは違反の重大性、違反された規則の地位及び代替的救済手段の不存在の累積的効果によるものであるから、イタリアの第2の主張の3つの要素は一体として検討されねばならないと主張した。

106. 裁判所はすでにイタリアの第2の主張の3つの要素のいずれも、それ自体としてイタリア裁判所の行為を正当化するものではないと判断した。これらが複合すればそのような効果を生ずるという主張は説得的ではない。国家実行について検討しても、これらの要素のうち二個又は三個全ての同時存在により本来享受すべきであった被告国家に対する主権免除付与の拒否を正当化したものは存在しない。事情の複合的効果の主張が、国内裁判所は一方で裁判権を実行することを正当化する可能性のある各種の事情、他方で免除を守ることに伴う利益という異なる要素を比較衡量すべきだという意味であれば、そのようなアプローチは主権免除の本質からみて賛同できない。本判決の第56項で説明したように、主権免除の根拠である国際法によれば、これは外国の権利である。その上同第82項で説明したように、国内裁判所は免除に関する問題を本案を検討する前の手続の冒頭で判断しなければならない。したがって免除が求められた国内裁判所に係属する各事件特有の事情の比較衡量の結果に主権免除の可否を依拠させることはできない。

4. 結論


107. よって当裁判所は、当裁判所が慣習国際法により享受すると判断した主権免除をイタリア裁判所が否定した行為は、イタリアがドイツに対して負う義務の違反となるものであると判断する。

108. したがって、当事者間でかなり詳細に争われたいくつかの論点については裁判所は判断の必要がない。特に国際法は武力紛争法違反の被害者である個人に直接補償を請求する権利を与えているというイタリアの主張の当否について裁判所は判断する必要がない。また、平和条約第77条第4項及び1961年協定の条項はイタリアにおける手続の主題についての拘束力ある請求権放棄条項であるというドイツの主張の当否についても判断する必要がない。これは、もちろん、これらは重要な問題ではないという趣旨ではなく、本件の限りにおいて判断の範囲に含まれないというに過ぎない。ドイツは第二次大戦中の戦争犯罪と人道に反する罪についてイタリアやイタリア国民個人に対して今でも責任を負っているのかという問題はドイツの免除享受に影響を与えない。同じように、免除の問題に関する裁判所の判断はドイツが責任を負うか否かの問題について影響を与えない。

IV. イタリア領内に存在するドイツ財産に対してとられた強制措置


109.ギリシャのリヴァニア一審裁判所判決でドイツに対する賠償請求を認められたギリシャ人原告らは、同判決のイタリアにおける執行を承認したフィレンツェ控訴院2006年6月13日判決に基づき、2007年6月7日、コモ地方土地登記所において、コモ湖近郊に位置するドイツの国有財産であるヴィラ・ヴィゴーニに対して裁判上の抵当権を設定した。(前記第35項)

110. ドイツは裁判所において、そのような強制措置は国際法によって享受する強制執行からの免除に違反すると主張した。イタリアはその措置を正当化しようとしなかった。反対に、イタリアは裁判所において、イタリアは「ヴィラ・ヴィゴーニに設定された抵当権登記の抹消をイタリアに義務づける裁判所のいかなる決定についても異議がない」と表明した。

111. 2010年4月28日政令第63号、2010年6月23日法律第98号、2011年12月29日政令第216号により、当該抵当権は当裁判所に本件が係属中であることを考慮して効力が停止された。しかしながら、それは取消されていない。

112. 裁判所は、上記のように抵当権の効力が停止され、当該強制措置の国際的合法性についてのイタリアの主張・立証が存在しないにも関わらず、当事者間のこの問題に関する紛争は未だに存在し、この主題は消滅していないと考える。イタリアはヴィラ・ヴィゴーニに対する裁判上の抵当権はイタリアの国際的義務に反する措置であることを公式に認めたのではない。また前記のとおり、措置の効力を喪失させたのでもなく、単にそれを停止したのみである。イタリアは代理人を通じて裁判所に、イタリア裁判所のドイツに対する決定は法律により当裁判所の決定までの間停止され、それらの決定の執行は「イタリアはドイツの訴える不当な行為をしていないと裁判所が決定した場合にのみ行われる」と述べた。それはヴィラ・ヴィゴーニに対する抵当権は当裁判所がそれが国際法に違反しないと結論した場合再び活性化することを意味している。当裁判所にそのような結論を要求しないまま、イタリアはそれを排除せず、適切な措置を直ちにとることなく裁判所の判断を待っているのである。つまり、ヴィラ・ヴィゴーニに対してとられた強制措置をめぐる紛争に関するドイツの第2の申立について両当事者が判断を求めていることになるから、裁判所は判断しなければならない。

113. この点についての申立に十分な理由があるか否かを検討する前に、裁判所は、外国の領域にある自国の財産に対する執行からの免除は、同じ国家が外国の裁判所で主権免除を享受する問題から更に踏み込んだ問題であることを述べておく。仮にある国が主権免除を要求できない状況の下で適法に判決を宣告されたとしても、それだけではその判決を受けた国家を法廷地国または当該判決を有効とみなす第三国における強制措置に従わせてよいということにはならない。同様に、外国裁判所における主権免除の放棄は、それ自体ではその国家が外国に所在する所有財産についての執行免除を放棄したことを意味しない。執行免除を規制する慣習国際法の規則と主権免除(厳密にいうと、外国の裁判権に服さない国家の権利)を規制する慣習国際法の規則は別個のものであり、別個に適用されなければならない。

114. 前項の趣旨は、本件において裁判所は、ドイツに対する金銭賠償を認容したギリシャ判決の執行のためにヴィラ・ヴィゴーニへの強制措置として設定された抵当権がドイツの執行免除に違反しているか否かの判断をするにあたり、ギリシャ判決自体が主権免除違反であるか否かを判断する必要はないということを意味する。同様に、本件強制措置が執行免除に適用される規則に照らして国際法上適法かという問題は、ギリシャ判決のイタリア領内での執行を承認したイタリア裁判所の判断が主権免除に適用される規則に照らして国際法上適法かと言う問題とは別個であり、別個に検討されなければならない。後者の問題はドイツからその第三の申立の主題として裁判所に提出されたものであり(第17項参照)、本判決では後に検討することにする。

115. ドイツはここで問題となっている論点についての自らの主張を裏付けるため国連条約第19条に規定された規則を引用した。同条約は発効していないが、ドイツの見解によればそれは執行免除の問題について一般国際法の下に存在する規則を成文化したものである。したがってその文言はその問題に関する慣習法を反映しているから拘束力があるという。

116.「判決後の強制的な措置からの免除」と題された第19条は次のとおりである。

「いずれの国の財産に対するいかなる判決後の強制的な措置(差押え、強制執行等)も、他の国の裁判所における裁判手続に関連してとられてはならない。ただし、次の場合は、この限りでない。
(a)当該国が、次のいずれかの方法により、そのような強制的な措置がとられることについて明示的に同意した場合
(ⅰ) 国際的な合意
(ⅱ) 仲裁の合意又は書面による契約
(ⅲ) 裁判所において行う宣言又は当事者間で紛争が生じた後に発出する書面による通知
(b) 当該国が当該裁判手続の目的である請求を満たすために財産を割り当て、又は特定した場合
(c)当該財産が、政府の非商業的目的以外に当該国により特定的に使用され、又はそのような使用が予定され、かつ、法廷地国の領域内にあることが立証された場合。ただし、そのような強制的な措置については、裁判手続の対象とされた団体と関係を有する財産に対してのみとることができる。」

117. 国連条約の策定にあたってこれらの条項は長期にわたる困難な議論を引き起こした。
裁判所は本件の目的のためには第19条の全ての内容が現在の慣習国際法を反映しているかについて判断する必要はないと考える

118. 実際は、裁判所にとっては、外国所有の財産に対するいかなる強制措置も、それが実行される前に充足すべき下記の条件のうち、少なくとも一つの条件が満たされていることが確認できれば十分である。それは、当該財産が政府の非商業的目的以外の活動に使用され、又は当該財産を所有する国が強制的な措置の実行に明示的に同意し、又は当該国が当該財産を法的請求を満たすために割り当てたことである。(この確立された実行の例として下記の裁判例がある。1977.12.14 ドイツ憲法裁判所判決、1986.4.30スイス連邦裁判所判決(スペイン王国対X会社事件)、1984.4.12 イギリス貴族院判決(アルコム株式会社対コロンビア共和国事件)、1992.7.1 スペイン憲法裁判所判決(アボット対南アフリカ共和国事件))。

119. 本件において、当該強制措置の対象となった財産は政府の完全に非商業的な目的、したがってドイツの主権機能に属する目的のために使用されていることが明らかである。 実際、ヴィラ・ヴィゴーニはドイツとイタリアの文化交流の促進を目的とする文化センターの所在地である。この文化センターは1986年4月21日付の交換文書の形でなされた両政府間の合意に基づいて組織・運営されている。当裁判所においてイタリアは、当該機関を「研究・文化・教育分野におけるイタリアとドイツの協力のための優秀なセンター」と表現し、イタリアは「その独特の両国による運営のしくみ」に直接に関与してきたこと認めている。ドイツは当該抵当権設定のような強制措置の行使についていかなる方法によっても明示の同意をしたことがなく、ヴィラ・ヴィゴーニをドイツに対する法的請求を満たすために割り当てたこともない。

120. これらの事情の下で、当裁判所はヴィラ・ヴィゴーニに対する裁判上の抵当権の登記は、ドイツに対する免除を尊重すべきイタリアの義務への違反となることを認める。

V. ドイツに対する民事請求を認容したギリシャ裁判所判決の
イタリアにおける執行を承認したイタリア裁判所の決定


121. ドイツは第3の申立において、ディストモ村虐殺事件に関する訴訟でギリシャ裁判所が宣告した判決のイタリアにおける執行を承認したイタリア裁判所の決定によっても、ドイツの主権免除が侵害されたと主張する。1944年6月にギリシャの村で起きたドイツ軍による虐殺事件の被害者の承継人が1995年にギリシャの裁判所にドイツに対する損害賠償訴訟を提起した。地域管轄を有するリヴァディア一審裁判所は1997年9月25日の判決で原告らに対する賠償の支払いをドイツに命じた。判決に対するドイツの上訴は2000年5月4日、一審裁判所判決の最終審であるのギリシャ最高裁判決により棄却され、同時にドイツに対して上訴審における訴訟費用の支払いが命じられた。一審裁判所と最高裁判所で勝訴した原告らはギリシャとドイツで執行できなかったため(前記30、32項参照)、それらの判決のイタリアでの執行の承認を求めてイタリアの裁判所に申請した。フィレンツェ控訴院はリヴァディア一審裁判所で認められた金銭賠償については2006年6月13日の決定によりこれを承認し、ドイツによる異議申立を経て2008年10月21日の決定で承認を確認し、ギリシャ最高裁判所で認められた訴訟費用については、2005年5月2日の決定で承認し、ドイツによる異議申立を経て、2007年2月6日に承認を確認した。後者の決定は2008年5月6日、イタリア破毀院により維持された。リヴァディア一審裁判所判決について承認を与えた決定についてもイタリア破毀院に上訴されたが、破毀院は2011年1月12日に上訴を棄却した。

122. ドイツはイタリアにおける1943年から1945年の戦争犯罪についてのイタリア裁判との関係でドイツが援用したのと同じ理由で、ギリシャ最高裁判所の判決はそれ自体ドイツの主権免除を侵害して宣告されたとして、リヴァディア裁判所とギリシャ最高裁判所の判決の執行を承認したフィレンツェ裁判所の決定はドイツの主権免除を侵害していると主張する。

123. これに対しイタリアは、本判決の第Ⅲ節で提起され議論されたのと同じ理由で、ギリシャ裁判所の判決にも、その判決のイタリアにおける執行を承認したイタリア裁判所の判決にも、ドイツの主権免除に対する侵害はないと主張した。

124. まず留意すべきことは、ドイツの第3の申立における主張は、前に提起され、前記第Ⅳ節(109項から120項)で議論された主張とは完全に分離・区別されるということである。裁判所がここで検討しようとしているのは、ヴィラ・ヴィゴーニに対する裁判上の抵当権のような強制措置がドイツの執行免除を侵害するかという問題についてではなく、ギリシャで認められた金銭賠償のイタリアにおける執行を承認したイタリア判決、又はその結果としての強制措置が原告の裁判権からの免除を侵害したか否かである。ヴィラ・ヴィゴーニに対する強制措置は専らリヴァディアのギリシャ裁判所の判決の執行を承認するフィレンツェ控訴院の判決によって課すことができたので、これらの二つの側面には関連があるが、それにも関わらず二つの問題は明確に区別される。前記の部分で議論されたのは執行からの免除に関する問題であり、裁判所がここで論じようとしているのは裁判権からの免除である。前に述べたとおり、二つの形態の免除は異なる規則により規制される。

125. 裁判所はここで、外国に対して提起された請求の本案について宣告した判決についてではなく、外国の裁判所が第三国に対して宣告した判決の法廷地国領域内での執行の承認を求める請求について、裁判権の免除の問題をどのように考えるかについて説明する。このようなケースでは裁判所は免除を主張する外国に対する直接の判決を求められているのではなく、被告国家の裁判権免除を規制する規則をすでに検討・適用したと考えている他国の裁判所が宣告した判決の執行の承認を求められているという事実から困難が生ずる。

126. 本件において両当事者は、このような状況では承認の請求を受けた裁判所が第三国の主権免除を尊重したか否かは専ら第三国に対する本案の判決を宣告した外国裁判所によって免除が尊重されたか否かにかかっているという基準により主張しているようである。すなわち、両当事者はフィレンツェ控訴院がリヴァディア裁判所とギリシャ最高裁判所の判決の執行を承認することによりドイツの主権免除を侵害したか否かは、ドイツがギリシャで訴えられた手続における抗弁の中で主張した主権免除にこれらの判決自体が違反したか否かに依存すると問題設定しているようである。

127. 国内裁判所が外国判決に承認を与える前に、その判決が被告国家の免除を侵害して宣告されたものでないか確認することには何の支障もない。しかしながら、当裁判所は本件の目的のためには全く異なる観点からこの問題を検討すべきであると考える。当裁判所の見解によれば、フィレンツェ控訴院がドイツの主権免除に違反したか否かを判断するためにはギリシャ裁判所の決定自体が免除を侵害したかという問題について判断する必要はないばかりか、判断することができない。それは本件において当事者の地位にないギリシャ国家の権利・義務について判断することになるからである(1943年にローマから移送された貨幣用金事件(イタリア対フランス、英国、米国)、東ティモール事件(ポルトガル対オーストラリア)判決参照))。裁判所の観点によれば、本件の目的のために重要な問題はイタリアの裁判所自身が承認を認容するにあたってドイツの主権免除を尊重したのかであり、承認の対象となった判決を宣告したギリシャの裁判所がドイツの主権免除を尊重したか否かではない。この種の状況下では上記の二つの問題への回答が同一である必要はない。当裁判所がここで検討しなければならないのは第一の問題のみである

128. ある裁判所に対し本件のように第三国に対する外国判決の承認が請求された場合、その裁判所は当該第三国に関する裁判権の行使を求められている。確かに承認申請の手続の目的は本案の紛争についての判断ではなく、すでに存在する判決の本案を宣告した裁判所の国以外の領域での執行を可能にする宣告に過ぎない。したがってすでに判決が出されている事件の実質についてあらゆる側面から再検討することは承認裁判所の任務ではない。それにも関わらず、承認裁判所は承認可否の決定によって、外国判決に対して法廷地国で本案について宣告された判決と同様の効果を与えることに帰着する裁判権を行使するという事実は残る。したがって、その裁判所に提起された手続は外国判決の対象となった第三国に対して行われたものとみなされなければならない。

129. これについて裁判所は国連条約第6条第2項の次の文言に留意する。

「いずれかの国の裁判所における裁判手続は、次の場合には、他の国に対して開始されたものとみなす。
(a) 当該他の国が当該裁判手続の当事者として指定される場合
(b) 当該他の国が当該裁判手続の当事者として指定されていないが、当該裁判手続が実際には当該他の国の財産、権利、利益又は活動に影響を及ぼすものである場合」

この文言を承認手続に適用すると、このような手続は外国判決の対象となった国家に向けられたものとみなさなければならないことを意味することになる。実際、それが(認められなかったとはいえ)、フィレンツェ控訴院の承認決定に対して異議申立をしたり承認判決についてイタリア破毀院に上訴したりする資格がドイツに与えられた理由である。

130. 上記により、第三国に対する外国判決の承認を求められた裁判所は、その外国判決が判断した事件の性質を考慮し、承認申請が係属する国の裁判所において被告国家が主権免除を享受するか否かを自ら検証しなければならない。言い換えるなら、外国判決の主題となったものと同種の本案紛争がその裁判所自体に提起された場合、被告国家に主権免除を与える国際法の義務があるか否かをその裁判所は自ら検証しなければならない。(2010 カナダ最高裁判所 クウェート航空対イラク事件判決、2011 英国最高裁判所 NMLキャピタル株式会社対アルゼンチン共和国事件判決参照)。

131. したがって、この論理に照らすと、ドイツに対して宣告されたギリシャ判決のイタリアにおける執行を承認したイタリア裁判所はドイツの免除を侵害したことになる。本判決の前記第Ⅲ節で述べた理由により、執行の承認の対象となったギリシャ判決(即ち、ディストモ事件)の主題と同種の本案訴訟が仮にイタリア裁判所に提起された場合、イタリア裁判所はドイツに免除を与える義務を負っていた。したがって、イタリア裁判所はドイツの主権免除に違反することなくギリシャ判決を承認することは不可能であった。

132. このような判断をするにあたり、ギリシャ裁判所自体がドイツの免除を侵害したかという問題について判断する必要はない。その問題は当裁判所に提起されていない上、前述の理由により判断することができない。例えば、被告国家が本案の口頭弁論で免除を放棄した場合のように、本案について宣告された判決が被告国家の主権免除に違反していないが他国で提起された承認手続は被告の免除により妨げられるということは、ある状況下では十分に起こり得ることを当裁判所は一般論として指摘するにとどめることにする。それが、二つの問題が別個であること、および当裁判所がギリシャ裁判所の判決の適法性について判断しないことの理由である。

133. よって、当裁判所はフィレンツェ控訴院の上記の判決はイタリアがドイツの主権免除を尊重する義務に違反したものであると結論する。

VI. ドイツの最終申立と救済措置要請


134. 口頭手続末尾の最終申立においてドイツは当裁判所に6件の要請をした。そのうち最初の3件は宣言的判決、残りの3件は既成の違反に対する原状回復を要求するものである(前記第17項参照)。当裁判所はこれらの要請について主文において判断することを求められている。

135. 前記第Ⅲ節、第Ⅳ節、第Ⅴ節で述べた理由により、当裁判所はイタリアが1943年から1945年のドイツによる国際人道法違反に起因する民事請求を許容することによりドイツが国際法上享受する主権免除に違反したとの宣言、ヴィラ・ヴィゴーニに対して執行措置をとることによりドイツに対する主権免除に違反し、上記と類似の事件についてのギリシャ判決を承認することによりドイツの免除を侵害したことの宣言を求めるドイツの最初の3件の要請を認容する。

136. ドイツは第4の申立において、イタリアが国際的責任を負うと判断し、宣言することを裁判所に求めた。
イタリアによる国際法上の法的義務に対する違反は、一般国際法の効果として不法行為による損害の完全な修復の義務についてのイタリアの国際的責任をともなうことは疑いない。本件における修復義務の概要は下記においてドイツの第5第6の申立とともに検討される。それらについての当裁判所の判断は主文において示されるであろう。一方特定の義務に違反したという認定から責任は当然に推定されるから、主文にイタリアが国際的責任を負う旨の宣言を含めることは完全に過剰であり、当裁判所は必要を認めない。

137. 第5の申立において、ドイツはイタリアが自らの選択によりその裁判所その他の司法機関によるドイツの主権免除を侵害するすべての決定を無効にすることを保証するあらゆる手段をとるよう命ずることを当裁判所に要請した。これは関連する決定は全て効力を喪失すべきであることを意味すると理解される。
国際違法行為の責任に関する一般国際法によれば、国際法委員会による国際違法行為に対する国家責任条約草案第30条に表現されているように、国際違法行為に対し責任ある国家は、違法行為が継続している場合にはその行為を停止する義務を負う。その上、当該行為が終了していたとしても、原状回復が物理的に不可能でない場合及び原状回復が金銭賠償の代わりに原状回復から得られる利益に対して均衡性を害した負担を伴わない場合には違法行為が行われる以前に存在した状態を再構築する義務に基づく国家責任を負う。この規則は国際法委員会草案の第35条に反映されている。
したがって、当裁判所はドイツの第5の申立を認容すべきである。ドイツの主権免除を侵害する判決及び措置のうち未だに効力を有するものの効力は消滅すべきであり、それらの判決や措置により生み出された効果は取り消されるべきであり、そのようにして違法行為の前に存在した状態は再構築される。本件において原状回復が物理的に不可能、又は原状回復が金銭賠償の代わりに原状回復から得られる利益に対してイタリアに均衡性を害した負担を負わせるということは、主張・立証されていない。特に、違反の一部が司法機関によってなされ、当該司法判断の一部がイタリア国内法で最終的なものであることはイタリアに課された原状回復の義務を解除するものではない。一方、被告には要求された結果を実現するのに適すると思われる手段を選択する権利がある。したがって、被告には適切な立法又は同様の効果を有する他の手段を選択し、この結果を実現する義務がある

138. 最後に、ドイツは第6の申立において、将来イタリアの裁判所が、第1の申立記載の出来事(すなわちドイツによる1943年から1945年の国際人道法違反)についてドイツに対する法的措置をとらないことを保証するあらゆる手段をとることをイタリアに命ずるよう求めた。
当裁判所が従前の判例で示したように(特に、 コスタリカとニカラグアの航行その他の権利に関する紛争事件判決参照)、国家の善意が推定されるから、一般的な判断として、その行為が不法であると当裁判所に宣言された国家がそのような行為を将来繰り返すことを裏付ける理由はない。したがって当裁判所が国際不法行為の責任国に対し、被害国に対する再発防止の保証の約束や、不法行為の再発を防止する特別の措置をとることを命じるのは、当該事件の具体的事情に照らしそれが正当化される特別の事情があると判断される場合に限られる。
本件においては当裁判所がそのような事情があると信ずるいかなる理由もない。したがって、ドイツの最後の申立は認容しない。

* * *


139. これらの理由によって、
裁判所は、

(1) 12対3で、
イタリア共和国は、ドイツの1943年から1945年にかけての国際人道法違反についてイタリアで提訴された民事請求を許容することにより、ドイツ連邦共和国が国際法上享受する免除を尊重する義務に違反したことを認定する。
賛成: 小和田所長、トムカ副所長、コロマ裁判官、シンマ裁判官、アブラーム裁判官、 キース裁判官、 セプルヴェダ・アモール裁判官、 ベヌーナ裁判官、 スコトニコフ裁判官、グリーンウッド裁判官、シュエ裁判官、 ドノヒュー裁判官
反対: カンサード・トリンダージ裁判官、ユスフ裁判官、ガヤ特任裁判官

(2) 14対1で、
イタリア共和国はヴィラ・ヴィゴーニに対して強制措置をとることにより、ドイツ連邦共和国が国際法上享受する免除を尊重する義務に違反したことを認定する。
賛成: 小和田所長、 トムカ副所長、コロマ裁判官、シンマ裁判官、 アブラーム裁判官、 キース裁判官、 セプルヴェダ・アモール裁判官、 ベヌーナ裁判官、 スコトニコフ裁判官、ユスフ裁判官、グリーンウッド裁判官、 シュエ裁判官、 ドノヒュー裁判官、ガヤ特任裁判官
反対:カンサード・トリンダージ裁判官

(3) 14対1で、
イタリア共和国は、ドイツの1943年から1945年にかけての国際人道法違反についてのギリシャ判決のイタリアでの効力を承認することにより、ドイツ連邦共和国が国際法上享受する免除を尊重する義務に違反したことを認定する。
賛成: 小和田所長、 トムカ副所長、 コロマ裁判官、シンマ裁判官、 アブラーム裁判官、 キース裁判官、 セプルヴェダ・アモール裁判官、 ベヌーナ裁判官、 スコトニコフ裁判官、ユスフ裁判官、グリーンウッド裁判官、シュエ裁判官、ドノヒュー裁判官、ガヤ特任裁判官、
反対:カンサード・トリンダージ裁判官

(4) 14対1で、
イタリア共和国は適切な立法又はその選択にかかるその他の手段により、ドイツ連邦共和国が国際法上享受する免除を侵害した裁判所その他の司法機関による決定の効力の取消を保証しなければならない。
賛成: 小和田所長、 トムカ副所長、コロマ裁判官、シンマ裁判官、 アブラーム裁判官、 キース裁判官、 セプルヴェダ・アモール裁判官、 ベヌーナ裁判官、 スコトニコフ裁判官、ユスフ裁判官、グリーンウッド裁判官、 シュエ裁判官、 ドノヒュー裁判官、 ガヤ特任裁判官、
反対 カンサード・トリンダージ裁判官

(5) 全員一致で、
ドイツ連邦共和国によるその余の申立を棄却する。

2012年2月3日、ハーグ、平和宮にて、フランス語を正文として、フランス語と英語で4部を作成し、1部は裁判所の記録保管所に置き、その余はドイツ連邦共和国政府、イタリア共和国政府及びギリシャ共和国政府にそれぞれ送付された。

(署名) 所長 小和田恒
(署名) 裁判所書記 フィリップ・クーヴルール

コロマ裁判官, キース裁判官及びベヌーナ裁判官は裁判所の判決に個別意見を添付する。 カンサード・トリンダージ裁判官及びユスフ裁判官は裁判所の判決に反対意見を添付する。
ガヤ特任裁判官は裁判所の判決に反対意見を添付する。

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