1. 裁判所の判決(多数意見)は外国が法廷地国で行った不法行為に対する特定の補償請求には主権免除が適用されないという見解を受け容れた。しかしながら裁判所は次のように述べた。

「慣習国際法は、武力紛争の遂行過程において国の軍隊その他の国家機関が損害をもたらす行為を他国の領域で行ったとして訴えられている国に対して免除を認めることを現在も要求していると考える。」(第78項)

この点がいわゆる「不法行為例外」の本件への適用を否定する分水嶺である。こうして裁判所は第2次世界大戦中のイタリアにおけるドイツの違法行為についてイタリア裁判所が管轄権を主張したことは国際的義務に反すると結論づけた。

裁判所(多数意見)の論理は堅実で、関係する国家実行についての広範な調査も行っている。しかしながら「不法行為例外」の射程については更なる分析が必要であり、いくつかの判例によれば、この分野の法は「発展」過程にある。

2. 「不法行為例外」は次のように、国連主権免除条約第12条に採用されている。

「いずれの国も、人の死亡若しくは身体の傷害又は有体財産の損傷若しくは滅失が自国の責めに帰するとされる作為又は不作為によって生じた場合において、当該作為又は不作為の全部又は一部が他の国の領域内で行われ、かつ、当該作為又は不作為を行った者が当該作為又は不作為を行った時点において当該他の国の領域内に所在していたときは、当該人の死亡若しくは身体の傷害又は有体財産の損傷若しくは滅失に対する金銭によるてん補に関する裁判手続において、それについて管轄権を有する当該他の国の裁判所の裁判権からの免除を援用することができない。ただし、関係国間で別段の合意をする場合は、この限りでない。」

この法典化条約は2004年の国連総会で採択され、現在のところ13ケ国が批准し、未発効である。いずれにせよ、その条文の全てが一般国際法規則と一致するとみなすのは不当であろう。一方で、その条文の多くが完全に革新的なものと見ることもできない。このことは、後述の数カ国の国内立法とそれに先行する1972年の欧州主権免除条約第11条という前例が存在する第12条に特に当てはまる。
この欧州主権免除条約第11条の文言は次の通りである。

「締約国は人の傷害や有体物の毀損が法廷地国の領内で発生し、その発生時に傷害や毀損の行為者が法廷地国の領内に存在した場合には、傷害又は毀損の補償に関する手続において他の締約国の裁判所の管轄権からの免除を主張できない。」

以下の項において欧州主権免除条約について多くの言及をすることはないであろう。なぜなら、それは主権免除に関する一般国際法規則の存在確認という目的のためには明らかに限定的な意義しか持たないからである。この条約は限定された地理的地域の8ケ国(オーストリア、ベルギー、キプロス、ドイツ、ルクセンブルグ、オランダ、スイス、英国)の批准しか得ていない。しかも、それは一般的規則の宣言を試みるものではなく、締約国の他の締約国の管轄権からの免除のみに関するものである。

3. 「不法行為例外」は9ケ国が制定した主権免除に関する国内法にも規定されている。このような国内法に「不法行為例外」を含んでいないのは一国(パキスタン)のみである。
国内立法は国家実行の重要な要素である。国際法規則の対象が司法当局の行為である場合には、裁判所による司法実行も明らかに同様である。司法当局が自国の立法者の要求から外れるのは例外的な状況に限られるであろう。私の知る限り、「不法行為例外」を含む立法を制定した国家のいかなる裁判所も国内法と一般国際法の両立について疑問を提起したことがない。

大部分の国家は主権免除に関する国内法を制定せず、直接に一般国際法を適用しているので、問題の国家の数は一見したところ諸国家の一般的な対応を代表するには不足しているように見えるかもしれない。しかし、10ケ国の30年以上にわたる立法実行を、一般国際法の現在の状況を確認する目的のためにとるに足らないとみなすのは困難であろう。これらの国家に採用された基準は、すべての国家が従うことを要求する標準を成文化しようとしたものではない。特定の問題について、いくつかの国家の国内法は一般国際法より主権免除を広い範囲で認めている。これは、主権免除を一般国際法より制限する場合とは異なり、完全に適法である。「不法行為例外」を主張する場合、国家は同例外を適用して適法に裁判権を実行する権限があることを疑わないであろう。仮にその見解が一般国際法において根拠がないとみなされるなら、それらの全ての国家は「不法行為例外」を適用すると国際責任を負うことになる。また、このような国内法はよく知られており、多くの国家が影響を受けることになるから、他の国家の側から国際的レベルで何らかの形の抵抗があるはずである。多数の国の沈黙を「不法行為例外」適用の適法性に対する暗黙の批判であると解釈することはできない。

4. 「不法行為例外」を含む主権免除に関する国内法を制定した9ケ国において、この例外の内容は類似している。下記に関連条文の文言を年代順に引用する。

1976年の米国主権免除法1605条 (a)によれば、

「(a) 外国は(次の)いずれの場合においても、アメリカ合衆国又は各州の裁判所の裁判権から免除されない。……

(5)上記(2)項が適用されない場合であって、アメリカ合衆国で発生した、外国又は官吏若しくは被雇用者がその権限内で行った不法な作為又は不作為による人の死傷または財産の損害または滅失について、その外国に対する金銭賠償請求がなされている場合。ただし次に定める場合には本号は適用されない。

(A) 裁量権が濫用されたか否かを問わず、裁量権の行使又は不行使に基づくすべての請求
(B)故意による刑事訴追、手続の濫用、文書による名誉棄損、口頭による名誉棄損、虚偽、詐欺、契約上の権利に対する妨害」

英国国家免除法(1978)第5節は下記の通りである。

「外国は連合王国内における作為または不作為による、(a) 死亡もしくは人の傷害または (b) 有体財産に対する損害もしくは滅失に関するいかなる訴訟手続において、裁判所の裁判権から免除されない。」

シンガポール国家免除法第7節は「連合王国」を「シンガポール」と置き換えたのみで、上記の英国国家免除法と同文である。

南アフリカの外国免除法第6節は次のように規定する。

「外国は共和国内における作為または不作為による、(a) 人の死亡もしくは傷害または (b) 有体財産に対する損害もしくは滅失に関する訴訟手続において、共和国の裁判所において裁判権から免除されない。」

オーストラリア外国免除法(1985)第13節によれば、

「外国はオーストラリア内で行われた作為または不作為による、(a) 死亡もしくは人の傷害または (b) 有体財産に対する損害もしくは滅失に関する訴訟手続に限り、訴訟手続から免除されない。」

カナダ国家免除法第6節は次の通りである。

「外国はカナダ内で発生した(a) すべての死亡もしくは人の身体の傷害または (b) すべての財産に対する損害もしくは滅失に関するすべての訴訟手続おいて裁判所の裁判権から免除されない。」

アルゼンチン外国裁判権免除法24,488第2条は次のように規定した。

「次の場合には外国は裁判権免除を援用できない…(e) 外国がアルゼンチン内で実行した犯罪または違反による滅失または損害について請求を受ける場合」

イスラエルの外国免除法第5節によれば、

「外国はイスラエル内で実行された不法行為による人間の傷害または有体財産の損害に対する損害賠償訴訟について裁判権からの免除を得られない。」

最後に日本の対外国民事裁判権法第10条は次のように規定する。

「外国等は、人の死亡若しくは傷害又は有体物の滅失若しくは毀損が、当該外国等が責任を負うべきものと主張される行為によって生じた場合において、当該行為の全部又は一部が日本国内で行われ、かつ、当該行為をした者が当該行為の時に日本国内に所在していたときは、これによって生じた損害又は損失の金銭によるてん補に関する裁判手続について、裁判権から免除されない。」

表現は異なるが、これらの全ての条文は、法廷地内で発生し、死亡や人の傷害または有体財産の損害をもたらした外国によるすべての作為または不作為をカバーする一般的宣言を含んでいる。

5. 前項で引用したいかなる立法例も外国の作為または不作為が外国の主権の行使として行われた主権行為である場合に「域外不法行為原則」の適用を制限していない。
後に修正されることなく2004年国連条約第12条となった第12条草案に関する国際法委員会(ILC)の注釈は次のように述べている。「第12条が予定する損害の分野は主に交通事故による偶発的な人の死亡もしくは身体の傷害または有体財産の損害に関するものである」が、「第12条の射程は脅迫暴行のような故意の身体傷害、財産の故意の損傷、放火または政治的暗殺を含む殺人に及ぶ広さをもっている。」「『いくつかの国の判例』は主権行為と業務管理行為の区別を維持しているが、第12条による『不法行為例外』はそのような区別を設定していない」。この注釈はさらに次のように述べている。

「不法行為地は、作為または不行為の動機、故意もしくは害意によるかまたは偶発的、怠慢、不注意、無謀、軽率であるか、そして行為の性質が主権行為であるか業務管理行為であるかに全く関わりなく、本質的な地域的結合関係を提供する。」

国連条約条文やその準備作業の中には、外国の行為が主権行為である場合に「不法行為例外」が適用されないことを示唆するものは存在しない。
イタリア破毀院はフェッリーニ事件において、ILC注釈を根拠に、次のように述べた。

(ILC草案第12条によれば)、「主権行為として行われた行為と業務管理行為として遂行された行為の区別は、『人の身体の完全性に対する攻撃』や『身体的』特性の滅失や損傷に起因する損害賠償については関連性がない。」 (2004年3月11日 No. 5044判決)

カナダ最高裁判所はシュライバー(Schreiber)対 ドイツ連邦共和国及びカナダ法務長官事件(2002)において、「不法行為例外」が主権行為にも適用されることを支持し、仮にこれについて適用を認めないとすれば「基本的権利の最悪の侵害の被害者から国内裁判所における救済の可能性を奪うことになる」との見解を述べた。

アイルランド最高裁判所のマケルヒニー対ウィリアムズ事件では異なる見解が示された。ハミルトン裁判長は、英国兵士の不法行為が法廷地国で行われたとしても、「そのような作為または不作為が主権行為として行われた場合には」、「外国に主権免除が与えられるべきである」と判示した。アイルランドは主権免除に関する国内法を制定していないし、欧州主権免除条約にも加入していない。後にマケルヒニー氏が欧州人権裁判所にアイルランドを提訴した。同裁判所は「不法行為例外」は「国際法と比較法の趨勢に合致している」としながら、次のように判示した。

、「この趨勢はもともと、外国領土における軍隊の行為のような国家関係や安全保障に影響する敏感な問題を伴う本質的に国家主権の核心に関わる問題に関するものではなく、通常の交通事故のような『保険事故』による人の傷害に関するものである。そのような主権行為に起因する損害賠償訴訟について主権免除を支持したのがアイルランドのみであり、主権免除を付与したとしても、これによってアイルランドが一般的に受け入れられている何らかの国際標準を逸脱したということでは決してない。」

マケルヒニー対アイルランド事件において欧州人権裁判所で問題となったのは、英国に主権免除を与える義務が被告国家にあったのかという問題ではなく、アイルランドが原告の裁判利用を拒否することにより欧州人権条約第6条の義務に違反したのかという問題であったことに注意すべきである。同裁判所は、国家は「不法行為例外」を適用することを求められているという考えには賛同しなかった。同裁判所は、主権免除に関する「国際法発展の現段階を考慮にいれると」、アイルランドが裁判権を実行する義務に違反したとはいえないと判示した。しかし同裁判所は仮にアイルランドが訴訟を許容した場合に主権免除に関する国際法に違反することになったのかという点には言及しなかった。

6. 欧州主権免除条約には条約の適用範囲を制限する各種の条項が存在する。本件と関係する第31条は次のように規定している。

「この条約は他の締約国の領域内において軍隊が行った全ての作為または不作為等について締約国が享受するいかなる免除や特典にも影響を与えない。」

ILC条文草案には類似の条項は存在しない。しかし第12条草案の注釈は、この条項は「軍事紛争に関わる状況においては適用」されないと述べている。ただし、何らの説明も、第12条草案が適用されない結果発生する事態に関する指摘もない。特に「軍事紛争に関わる状況」は国連条約の射程外と考えられているか、それとも条約に規定される他の条項が適用されることになるのか明らかでない。

ILCの注釈で示唆された適用除外は国連条約の条文の文言にも、条約に添付された解釈にも見出すことができない。また、この条約の採択を勧奨した特別委員会による国連総会に対する報告もこの問題に触れていない。しかし、この報告書を国連総会第6委員会に紹介するにあたり、特別委員会議長のゲルハルト・ハフナー氏は次のように述べた。「提起された問題のひとつは、軍事活動は条約にカバーされるかということであった。常に、カバーしないという一般的理解が優勢であった。」彼は更にILC注釈によって示唆された、「軍事活動」より狭い概念である「軍事紛争に関わる状況」の除外に言及した。特別委員会議長はこの問題は国連条約によって統制されないとの意見を表明した。しかし、この見解の法的意味は全く明らかでない。同条約を採択した国連総会決議59/38はその前文の末尾で次のように述べた。「特別委員会報告の紹介における特別委員会議長の見解を考慮しつつ」。この一節の意味も全く明らかでない。
ノルウェーとスウェーデンは国連条約を批准するにあたり、この条約は「軍事活動」には適用されないという理解を宣言した。これらの2ケ国はハフナー氏の「軍事活動」は国連条約にカバーされないという見解を共有したのである。これらの解釈宣言は「軍事活動」 は国連条約によって統制されないという見解を支持するが、すべての締約国を拘束する解釈を提供するものではない。

7. 前記第3項で言及した立法例のなかに「軍事紛争に関わる状況」や「軍事活動」に関する請求を一般的に除外したものはない。ただし、これらに関するいくつかの条文が存在する。
英国国家免除法(1978)16 (2)は次のように規定している。

「本法のこの部分は英国に存在する国家の軍隊の行為に関する訴訟手続とくに駐留軍法(1952)の適用を受けるものには適用されない。」

シンガポール国家免除法19 (2) (a)にも類似の文言がある。これらの条項は法廷地国の領域に合意の元に駐留する国家の軍隊に対する請求に関するものと思われる。イスラエル外国免除法第22節はこの点について更に明確に規定している。

「本法の条項に関わらず、イスラエル国と当該外国の協定によりその地位が定められている外国軍隊の全ての作為または不作為を原因とする法的手続は、その協定によって統制される。」

オーストラリアの外国免除法(1985)第6節も「1963年防衛(駐留軍)法」による免除や特典を除外し、カナダ国家免除法第16節は法廷地国にその合意の下に駐留する軍隊についてのみ「駐留軍法」に言及している。

どの文言も「不法行為例外」に特別の関心を払っていない。それらはすべて外国の免除に関する、より一般的な条項である。いずれにせよ、これらの文言は、除外条項の適用がない軍事活動に関する請求は、法律に規定された「不法行為例外」を含む免除規則の適用範囲にあることを示唆している。

8. 数カ国の国内裁判所が第2次世界大戦中の軍事活動に関するドイツの主権免除について検討した。

イタリア破毀院はフェッリーニ事件において、イタリア国民をドイツに移送し強制労働に従事させたという違法行為が「司法手続が提起された国において開始された」という事実に重点を置くという根拠に基づいて主権免除を否定した。(2004年3月11日5044判決)。その後の何件かの判決において、同裁判所は「違法行為がやはりイタリアで行われたという観点から」主権免除を否定した(例えば2008年5月29日14209命令)。

フランスの破毀院は反対に、ブシュロン事件(2003年12月16日02-45961判決)とグロス事件(2006年1月3日04-47504判決)においてドイツの免除を認めた。両事件ともドイツに移送され強制労働させられたフランス民間人に関するものである。破毀院は主権行為であることを論拠とし、「不法行為例外」の適用可能性については検討しなかった。

この問題に関するギリシャ裁判所の判断は分かれた。ギリシャ最高裁判所はディストモ事件(2000年5月4日判決)において、次のように判示した。

(慣習国際法規則は、)「法廷地国の領域において、当時法廷地国の領域に存在した外国の機関により行われた人または財産に対する不法行為に関する損害賠償の請求について、その損害が主権行為の結果であったとしても、国内裁判所が主権免除の例外とすることによって国際裁判権を行使しうることを求めている」。

同判決の多数意見は、これは「補償が請求されている攻撃(とくに人道に対する罪)が一般的に民間人を標的とするものではないが、特定の場所で直接的にも間接的にも軍事活動に関与していない特定の個人を標的とする場合には」「武力紛争時の軍事活動による損害」にも適用されるであろうという見解を支持した。

一方、2年後のマルゲロス事件において、ギリシャ特別最高裁判所は(6対5の評決で)、「不法行為例外」は外国軍隊の活動には適用されないという、ほとんど正反対の結論を下した(2002年9月17日判決)。

「国際法の現在の発展段階においては、戦時であるか平時であるか、またいかなる形態であるかを問わず、法廷地国の領域内で被告国家の軍隊が行った不法行為に関する補償請求について、主権免除の例外として、一国の裁判所において他の国家に対する司法手続を許容する一般的に承認できる規則は存在しない。」

ポーランド最高裁判所はナトニエフスキー事件(2010年10月29日判決)において類似のアプローチを採用した。同裁判所は次のように結論づけた。

「法廷地国の領域における軍事活動の範疇に属する不法行為によって生じた人権侵害に対する補償に関する件において、主権免除の例外を認める充分な根拠はない。」

法廷地国の領域における軍事活動について外国に主権免除を認めたその他の判決については第11項で言及するであろう。

9. 「域外不法行為原則」に関する国家実行の一般的分析及び特に軍事活動による被害者に関する分析は、 国家当局が多種多様なアプローチを採用していることを示している。即ち、「見解と判例にはグレーゾーンがあり、立法例も今のところ多様である」というILCの見解にしたがって主権免除の問題を検討することができる。この「グレーゾーン」においては、国家は一般国際法の要求からはずれることなく、多様な立場をとることができる。

軍事活動について示唆される「不法行為例外」の制限の理論的根拠は明らかでない。そもそも、ILCの国際違法行為に関する国家責任条文第4条に規定されたように、国家機関の行為はあまねく国家に帰属するはずである。なぜ同じ国家の軍隊と他の機関が区別されなければならないのか?その上、法廷地国がその領域に外国軍隊が駐留することに同意している場合には、特別で友好的な免除制度の存在は理解可能である。通常、関係国の協定によりそのような制度が創設されているであろう。しかし、敵国が法廷地国の領域で行った行為について、裁判権行使という領域国の主権国家としての権利に優先する友好的制度が存在しなければならないのかと言う問題はさらに理解困難である。

軍事活動は大規模な損害をもたらす可能性があるという事実は、法的補償を求める多くの潜在的な原告を拒否する理由として妥当ではない。実際にはこのような救済方法は実効的でないかも知れないが、主権免除の適用は外国に請求する原告らに、獲得する可能性のある判決の執行の困難を更に一般的に与えることになる。

10. 「不法行為例外」を適用して主権免除を制限することを正当化するための要素のひとつが、外国に対する補償請求の原因となった義務違反の義務の性質である。これは専ら国内法上の義務であることもあるが、国際法上の義務違反の場合もある。後者の場合は、少なくとも民間人虐殺の場合には妥当する強行規範上の義務違反である。

実際に問題となるのは、強行規範上の義務違反の防止や中断のための裁判権の実行ではなく、問題の違反による損害の補償のための司法救済である。強行規範上の義務違反に対する補償義務も強行規範に含まれると解するのは難しいであろう。

したがって、例えば1949年ジュネーブ条約第1追加議定書第91条は「条約またはこの議定書の条項に違反した紛争当事者は、必要な場合には、補償義務を負う」と規定し、国際赤十字委員会による注釈は「不法行為例外」は「国際法と比較法の趨勢に合致している」「平和条約の帰結として、各締約国は原則として一般的な戦争被害に関する問題と開戦責任について適切と思われる方法で処理することができる」と述べている。(1949年8月12日ジュネーブ第12条約第8追加議定書(1977年6月8日)注釈)
補償義務を強行規範上の義務と見ることは困難であるとしても、主張された違反が強行規範に対する違反であるという事実は結論に影響を及ぼす。国際法委員会の国家責任条文草案第41条は、通常の違法行為によるものに加えて、一般国際法の強行規範上の義務に対する国家による重大な侵害についてのいくつかの効果を列挙している。
第1,2項はいくつかの特別の効果を列挙し、第3項は「この章が適用する義務に対する違反に国際法上必然的に伴う効果」について述べる。条文の文言やその注釈では主権免除について言及されていないとは言え、免除の制限は補償義務遵守の効力を強化するための適切な効果を有すると見るべきである。これは法廷地国の領域内における外国の軍事活動による損害の「グレーゾーン」に国家が裁判権を行使することの適法性に関する疑義の払拭に貢献する。換言すれば、仮に法廷地国における軍事活動による損害に関する一般的請求に免除が適用されるとしても、それは同じ地域における民間人虐殺や拷問にまで拡張されることはない。

11. 違反の性質によっては、外国による損害がどこで発生しようとも外国に対する主権免除の制限が及ぶと推論することはさらに困難である。

この推論は欧州人権裁判所のアル・アドサニ対英国事件の少数意見、イタリア破毀院のフェッリーニ事件(2004年3月11日判決)を始めとする多くの事件、ミルデ事件(2009年1月1日判決)で示唆された。またフランス破棄院のリユニオン航空対リビア・アラブ・ジャマーヒリーヤ国事件判決(2011年3月9日)は外国の積極的な関与がある場合には、強行規範上の義務違反に関する補償請求について免除制限があることを指摘した。

欧州主権免除条約と国連主権免除条約は上記の見解を支持しない。なぜなら、外国により侵害された義務の性質による免除例外を採用しなかったからである。 1999年、ハフナー氏に率いられた国際法委員会のワーキンググループは、「強行規範の性格を有する人権規範に対する国家の違反行為の結果としての人の死傷の事件」に関する請求について主権免除を拒否することは、ワーキンググループが国連総会に対して「無視すべきではない」と率先して提案した「最近の発展」であると評価した。国連総会ワーキンググループ議長(やはりハフナー氏)報告は「この問題を今回の検討課題に含めることは賢明」ではないと述べた。ただし、これを提案された例外への全面的な拒否とみることはできない。

国際法委員会のワーキンググループが主権免除制限の判断をしたのは、共に米国の1996年反テロ効果的死刑法に基づく2件の判断のみであることに注目すべきである。これは拷問、超法規的殺人、その他の行為が国務長官がテロ支援国家に指定した外国によって行われ、原告または被害者が米国民である場合には、その行為がどこで行われたかにかかわらず、その損害賠償訴訟について外国の主権免除を制限するために外国主権免除法を修正したものである。米国法が求めるのはこれらの状況のみであり、請求の原因となった義務の国際法上の性質に基づく免除例外の存在について言及していない。

更に重要なことは前記第3項で言及した国内法にそのような例外に言及したものが存在しないということである。
この問題は欧州人権裁判所のアル・アドサニ対英国事件において徹底的に議論された。9対8の評決の多数意見は次のように述べた。

「国家が法廷地国外において行ったとされる拷問の損害賠償の民事訴訟において主権免除を享受しないという主張が国際法に受け入れられたという確証を見出すことが」(できなかった)。

オンタリオ控訴裁判所もボウザリ対イランイスラム共和国事件(2004年6月30日判決)において、違法行為が発生した場所にもとづく区別を強調した。カナダ法に基づく「不法行為例外」の適用可能性を暗示的に認めながら、同裁判所は「法廷地国外で行われた拷問行為について主権免除が認められるという慣習国際法原則を反映した実行」と述べた。

スロベニア憲法裁判所(2001年3月8日判決)は、次のように判示した。

「人権保護の分野における強行規範違反の場合に、国家の行為が主権行為であることの効果として、外国国家に対する訴訟をスロベニア裁判所に許容する」「趨勢」はあるものの「慣習国際法規則」は存在しない。

同裁判所はこの件において、後にスロベニア領となった地域で実行された行為について判示しているのである。
ディストモ事件のギリシャ本案判決の執行請求を受けたドイツ連邦裁判所2003年6月26日判決も類似のアプローチを採用した。
英国貴族院ジョーンズ対サウジアラビア事件(2007年)は強行規範に基づく義務違反に対する請求についての主権免除例外の存在を完全に否定した。これは法廷地国外で行われた拷問行為に対する請求に関する判決である。

これらの実行の要素の全てを検討すると、請求の原因となった国際法上の義務の性質は、強行規範による義務違反に対する補償請求事件において、違法行為地がどこであるかに関わらず外国に裁判権を行使してよいということの明白な証拠をそれ自体では提供するものではないという結論に達する。一方で、この実行から、侵害された義務の性質が「不法行為例外」の適用可能性について否定的効果を有すると推論することはできない。仮 に侵害された義務が軽微なものである場合には「不法行為例外」にもとづいて訴訟が許容され、強行規範による義務違反に関する請求の場合には「不法行為例外」が適用されないとするなら、それは異常というほかはない。

12. 上記の基準の適用は、ドイツが訴状で言及したイタリア裁判所の様々な判決のそれぞれの事実関係についての更に詳細な検討を裁判所に要求するであろう。それは、少なくともイタリア裁判所の特定の判決について、裁判権の実行は一般国際法上の義務違反であると見ることはできないという結論に裁判所を導くことになる。

(署名)ジョルジオ ガヤ

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